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静岡SSUボニータ なでしこリーグ1部昇格のために磐田市で何を続けてきたのか?三浦哲治さん、風間八宏さん、本田美登里さん、3人のキーパーソン

静岡SSUボニータが2022プレナスなでしこリーグ2部を優勝。来シーズンは1部に昇格します。18試合で37得点15失点。約半分の8試合が無失点で守備は固く、得点力も申し分のない戦いぶりです。実は、静岡SSUボニータの選手は得点ランキングのトップ5に誰も入っていません。中軸選手が不在でも、どこからでも得点する、まさに、総合力の勝利でした。

2020年シーズン、2021年シーズンは静岡SSUアスレジーナ(アスレジーナは「オール静岡女王」の意味)として戦いましたが、2021年1月に愛称をアスレジーナからボニータに戻し、磐田市を中心にした静岡県西部地域で活動するイメージが強くなりました。

筆者は2021年晩秋に磐田市を訪ねました。その際にC O Oである北本章さんから。来シーズンの優勝への自信を感じさせるお話をたくさんお聞きしました。有言実行……こうして、実際に優勝したので、静岡SSUボニータが目標に向かって順調に進んできたことを感じます。今回は、静岡SSUボニータのここまでの歩みと今シーズンに得られたことについて振り返ります。静岡SSUボニータは、なぜ1部昇格を達成できたのでしょうか。

提供:静岡SSUボニータ

三浦哲治さん、風間八宏さん、本田美登里さん、3人のキーパーソン

2008年に静岡産業大学磐田ボニータ(静岡SSUボニータの前身)として創設以来、優れた選手を育て続けた静岡SSUボニータの歴史を語る上で、北本さんに加えて忘れてはならないキーパーソンが3人います。

まず、一人目はC E Oの三浦哲治さんです。1994年に静岡産業大学サッカー部(男子)を創設した際の初代監督。現在は、静岡産業大学スポーツ振興部副部長としても活躍されています。2008年に、藤枝キャンパスで活動していた女子サッカー部を元に静岡産業大学磐田ボニータを立ち上げ、こちらも初代監督に就任しました。三浦さんは、学生時代に全国的に名前を知られた選手で、静岡学園高校では全国高校サッカー選手権大会に準優勝。大学時代は東京農業大学の黄金期を支えました。ちなみに、三浦泰年さん三浦知良さん兄弟は、三浦さんの甥にあたります。

静岡産業大学は学園型地域総合スポーツクラブであるいわた総合スポーツクラブを設立。三浦さんは静岡産業大学と地域、そして静岡SSUボニータをつなぎ、チームを育ててきました。

風間八宏さんを招聘し徹底的に身につけた「止める・蹴る」

静岡SSUボニータは、決して平坦な道ばかりを歩んできたわけではありません。2019プレナスなでしこリーグ2部を10位で終えチャレンジリーグE A S T(3部に相当)に降格。2020年5月に三浦さんは静岡SSUボニータの指導体制を刷新します。そこで取り組んだのは、まさかの一手。川崎フロンターレや名古屋グランパスの監督を務めた旧友・風間八宏さんをテクニカルアドバイザーに迎えたのです。風間さんは清水商業高校出身。就任直後の静岡産業大学公式サイトの取材記事で、このように話しています。

「スクールでも指導しているし、基本的には男女『変わらない』と思っている。今は理解するために説明や反復練習が多くトレーニングの時間が長くなっているけれど、理解した後はもっとハードに、時間も短くなっていくと思う。男子、女子ということではなく、どこでも同じことが起きる。

『止める・蹴る』を完璧にこなせる選手は男子にもほとんどいない。正確にボールを置くことができれば、次の動作へスムーズに移行できるし無駄がない。まずは自分の「止める」位置を知らなければならない。そのためのトレーニングを行っている。」

本田美登里監督の元でなでしこリーグ2部に復帰

三浦さんは風間さんを招聘する際に「面白いサッカーを創りたい」と口説いたとされています。そのとき、風間さんを後押ししたのは、一足早く監督に就任していた本田美登里さんでした。本田さんは古豪・清水第八スポーツクラブでプレーしていた高校生時代に風間さんからアドバイスを受けたという旧知の中。そして、女性指導者として初めて日本サッカー協会公認S級コーチライセンスを取得した女子サッカー指導者の先駆けです。宮間あや選手を軸に岡山湯郷Belleを強豪チームに育てた実績があります。AC長野パルセイロ・レディースも本田さんの指導で飛躍しました。技術指導に優れた風間さんと、現役時代からファイタータイプの本田さんの指導が見事に噛み合って、静岡SSUボニータは1シーズンでなでしこリーグ2部に復帰します。引き続き、本田監督が指揮を執った2021プレナスなでしこリーグ2部を3位でフィニッシュ。チームづくりは次のステップに進みます。

小川貴史監督が選手の力をさらに引き上げた

「準備期間は終わったと考えていました。」と語る北本さん。チームとしての基礎を植え付ける段階を2021年シーズンまでとし、2022年2月に本田美登里監督がウズベキスタン女子代表監督に就任し退任することが決まる以前から、今シーズンからは一つ上のステップに上がることを目指していました。今シーズンは、昨シーズンまでオルカ鴨川FCで監督を務めていた小川貴史さんを監督に招聘しました。

「今シーズンは小川監督と三浦が『止める・蹴る』に注視しすぎないようにやってきました。昨シーズンまでは、選手がボールを大きく蹴り出してしまう場面があると厳しく指導していました。『止める・蹴る』は非常に重要ですし、自分達の武器になりますが、今シーズンは大きく蹴ることも一つの選択肢として最良の判断をすることを重要視しました。」

小川貴史監督 提供:静岡SSUボニータ

小川監督は就任に際し「本田監督が積み上げてきた『これまで』と、クラブが描く『これから』をつなぐことが自分の仕事。地域の皆さんに喜んでいただけるよう、選手、スタッフと力を合わせて進んでいく」とコメント。これまでの2年間で、選手には技術に裏打ちされた判断力が備わっていたのです。三浦さん、風間さん、本田さん、キーパーソン3人の力を小川監督が、チームの強さに昇華させ、選手が身につけた実力を発揮。ついに静岡SSUボニータは優勝します。

静岡SSUボニータがシンガーの人生を変えた

ヤナギアオ.さんは、静岡県を中心に活動するシンガーです。静岡SSUボニータの優勝を心の底から喜んでいました。

「自分のことのように嬉しいです。会う人に『ボニータ優勝したんだよ』って、めっちゃ言いました。」

静岡SSUボニータは、ヤナギアオ.さんの人生を変えたチームです。このチームとのご縁がチーム応援歌、C Mソングにつながり、彼女の今があります。今の音楽事務所に所属しユーチューブに曲を公開した直後に、静岡SSUボニータからチーム応援歌制作の相談がありました。音楽事務所が、ヤナギアオ.さんの歌声を静岡SSUボニータに紹介。高く評価してもらい、すぐにチーム応援歌の制作に着手。2020年8月にチーム応援歌『S P E C T A C L E』のM Vが公開されました。そして、その一年後には、静岡SSUボニータのユニフォームスポンサーの株式会社クラストのC Mソングに抜擢されることになったのです。

残念ながら、ヤナギアオ.さんは、静岡SSUボニータが優勝を決めた最終節の応援に行くことができませんでした。

「ライブに来てくださる方々が、私をきっかけに静岡SSUボニータの応援に行ってくださるようになりました。そうした方々のツイッターを見て私は優勝を知りました。私にとっては、とても幸せなお知らせでした。皆で喜びを共有できました。」

エコパで熱唱するヤナギアオ.さん 提供:静岡SSUボニータ

子どもの頃、ヤナギアオ.さんはS M A Pに憧れていました。S M A Pは2002年に、磐田市のお隣の袋井市にある静岡県小笠山総合運動公園エコパスタジアムでコンサートを開催し、そのとき、ヤナギアオ.さんはスタンドからステージに立つ5人を見つめていました。あれから20年が経ち、2022年7月10日、今度はヤナギアオ.さんがエコパスタジアムで歌うことになりました。

「同じ場所で歌えることが嬉しかったです。藤原加奈選手(ノジマステラ神奈川相模原へ移籍)と三好茜選手(海外挑戦)のセレモニーがあり素晴らしいチームだと改めて思いました。大型モニターに選手の皆さんが制作した映像が流れて、皆が泣いていました。私は、皆が泣いているところに登場して歌いました(笑)。」

三好選手は後半から出場。84分にドリブル突破した藤原選手からのスルーパスを受けゴールネットを豪快に揺らし、静岡SSUボニータは大舞台を1−0で勝利しました。

「Jリーグのように、たくさんの地元の皆さんが試合結果の会話をしてくれることが当たり前になってほしい。静岡SSUボニータと共に暮らすことが当たり前の存在になってほしいです。」とヤナギアオ.さん。自分の周囲で、少しずつ静岡SSUボニータの話題が増えていることを感じています。

予想以上の大活躍をした、あの選手たち

さて、なぜ静岡SSUボニータは、なでしこリーグ2部の優勝争いを戦い抜くことができたのでしょうか。しかも、中軸選手の藤原選手と三好選手が4試合を残した第15節で離脱し苦しい陣容になったはずです。

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