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K―P O Pガールズグループの「ガールクラッシュ」とは何か?同性の推しアーティストがいる女性が増加中 WEリーグへの影響は?

『ヴォーグ ジャパン』2022年12月号 Cover:Songyi Yoon © 2022 Condé Nast Japan. All rights reserved.

世界で最も影響力のあるファッション誌『V O G U E』の日本版『ヴォーグ ジャパン』https://www.vogue.co.jp/ 2022年12月号が11月1日に発売されました。この号のテーマは「ガールクラッシュ」。表紙を飾ったのは、今月日本デビューしたKP O PガールズグループI V Eで唯一の日本人メンバーレイさんです。

生半可なマインドと実力だけではスターにはなれないガールズグループ激戦区の中で、6人組ガールズグループI V Eは、セカンドシングル「L O V E D R I V E」(2022)がさまざまな音楽サブスクリプションサービスのランキングで1位をマーク。音楽番組13冠を達成し、その地位を確固たるものにしました。グループの中でパワフルなラップを披露するレイさんが、待望の日本デビューに合わせ『ヴォーグ ジャパン』のスペシャルシューティングとインタビューに登場しています。表紙には大きな文字で「ガールクラッシュ」と記されています。

近年、KP O Pを中心に「同性の推しアーティストがいる女性」の増加が注目されています。何が彼女たちを熱中させるのでしょうか。今回は、KP O Pガールズグループを語る上で重要なキーワードとなっている「ガールクラッシュ」とは何かをWEリーグ側の立ち位置から探ります。「ガールクラッシュ」とは何かを理解すれば、女子サッカーが女性のファンの支持を得るための戦略を検討する際に必ず役に立ちます。

ありのままの自分を表現する「ガールクラッシュ」

「ガールクラッシュ」はKP O Pファンの間では「ガルクラ」と略されるほど浸透しているスタイルです。「ガールクラッシュなアーティスト」は、従来のアイドルが培ってきたかわいさや美しさの尺度を活動の基準とせず、ありのままの自分を表現し、自分自身が持つ本来の魅力と個性を最大限に活かしています。

KP O Pとマンチェスター・シティを愛するサッカーファンのまちるださんは「『ガールクラッシュ』のイメージは『かっこよさ』と『私らしさ』」だと言います。「私は私、他の人は他の人、それぞれ違って良い」と強気なメッセージを発信しているというのです。

それを聞いて、筆者はWEリーグのクレド(行動規範)を思い出しました。そこには、このように書かれています。

「みんなが主人公になるためにプレーする。」

WEリーグの目指すところは、ありのままの自分を表現する「ガールクラッシュ」のスタイルに近いのではないでしょうか。気になります。だからこそ、女子サッカー関係者が、日本版『ヴォーグ ジャパン』の表紙を飾るまでに至っている「ガールクラッシュ」を研究することに意味があります。

WEリーグ かわいい等はNG問題」と重複する「基準を押し付けない共感性」

実は、日本版『ヴォーグ ジャパン』が「ガールクラッシュ」を特集するのは、今回が初めてではありません。2021年3月にも特集をしています。そして、「ガールクラッシュ」を最初に広めたグループはB I G B A N Gの妹分・2N E1だとされています。2N E1は、今から10年以上も前の2009年にデビュー。それは、韓国の芸能界で性上納や暴力事件の問題が次々と明るみになった時期です。

「ガールクラッシュ」の概念を、あらためて世界中に知らせ上書きしたのはB L A C K P I N Kです。2016年にデビューしたB L A C K P I N Kは「アジアに舞い降りた次世代ガールクラッシュ」というキャッチフレーズを使用しています。韓国の芸能情報サイト『I D O L I S S U E』によると、韓国のC D・書籍販売店である「A L A D I N」からB L A C K P I N Kの音源を購入した者の58.9%が女性だとのことです。日本においては、2017年7月に新人としては異例となるデビューショーケースを日本武道館で開催し、20万件以上の申込みが殺到。日本でも一躍トップスターとなりました。

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彼女たちの発信は、長く日本の若い世代に大きな影響を与えてきました。そして、日韓の若い世代の女性の考え方に共通項があるとも考えられます。WE Love 女子サッカーマガジンでは2021年10月に「WEリーグ かわいい等はNG問題」の記事を掲載しました。座談会の中で「恋人や友達から『かわいい』と褒められるのは嬉しい。」でも「他人と『かわいい』を比較されるのは不愉快に感じます。」という発言がありました。まさに「ガールクラッシュ」の「基準を押し付けない共感性」と重複する発言だったのではないでしょうか。

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多様性とはまさに「ありのまま」を大切にすること

「ガールクラッシュ」のような「基準を押し付けない共感性」が女性たちの支持を集めていることが分かりました。では、何が支持を集める要因となっているのでしょうか。もう少し具体的に聞いてみました。教えてくださったのは、フリーライター/フリーランス広報で活躍されている水元ことしさんです。水元さんが、特に注目しているガールズグループ・M A M A M O O (ママム)を題材に「ガールクラッシュ」を解説していただきました。

誰でも自分を発信できる時代だからこそガールクラッシュは世界を席巻した

なぜ「ガールクラッシュ」は韓国国内にとどまらず、日本をはじめとする世界各国で受け入れられているのでしょうか。水元さんは世界共通のコミュニケーション環境が、その後押しになっていると言います。

「ガールクラッシュが多くの人の心を掴む理由は、やはり『ありのまま』でかっこいいところだと思います。SNSが発展し、誰でも自分を発信できるようになりました。でも『かわいい』『かっこいい』という一般的な基準に合わせた結果、みんな同じ顔に見えるなんてこともよくありますよね。一方で画一化された基準に合わせることに対する不自由さも手伝って、多様性を大事にする社会にもなりつつあります。多様性とはまさに『ありのまま』を大切にすること。自分をよく見せることが当たり前の時代だからこそ、作り込むことなく媚びない自然体の姿を発信するガールクラッシュは、人々に支持されたのだと思います。誰かと比較して、簡単に傷ついてしまうからこそ、他人を巻き込まず自然体の自分を愛するというメッセージが共感を呼んだのではないでしょうか。」

抑圧や批判をはねのけ、真っ向から勝負する名言はなぜ支持されたのか?

「この時代がいう美しさの基準に自分が合わないのなら、私が新しい美の基準になるんだ。」

M A M A M O Oのファサさんの名言とエピソードに、水元さんは強いインパクトを受けました。画一化された基準に合わせることの息苦しさや行き過ぎたルッキズム(外見至上主義)への反発に共感する女性ファンが数多く存在するのです。

M A M A M O Oはデビュー前に『ビジュアルのせいで売れない』と言われた苦い過去があります。特にファサは外見至上主義の韓国で厳しい批判を浴びました。彼女はデビュー前に受けたオーディションで、先生から『太っていて、かわいくない』と容姿を批判されたそう。傷つき泣いて、一晩中ビヨンセのライブ映像を観たと語るファサ。そうしていつの間にか悔しい気持ちを消化し『私が新しい美の基準をになるんだ』と決心したとコンサートで明かしています。

他人と比べず『私は私』と自分らしさを追求し、自分を愛する。ファサの力強いメッセージは、韓国を飛び出し、世界中で話題になりました。M A M A M O Oは女性アイドルとしては珍しく、女性ファンが9割を占めるほど女性からの支持率が高いグループ。ファサのパワフルな発言から、ファンになった方も多いようです。私もファサのかっこいい生き様に憧れるファンのひとりです。」

「ガールクラッシュ」の「私らしさ」とWEリーグの目指す「みんなが主人公になるためにプレーする」には親和性がある

ウェブサイト『C I N R A』は2021年4月にKP O Pファンの押し活に関するアンケート調査結果を掲載しました(オンライン調査に回答者214名)。記事によると10代女性回答者の79%は「推し女性アーティストがいると回答しています。

「一番推している女性アーティストの、どの側面にもっとも惹かれていますか?」という質問について「容姿」と回答した10代は10%以下。「コンセプト・世界観」や「人間性」の回答者数は「音楽」「パフォーマンス」「歌詞」の回答者数を上回りました。

もしかすると、WEリーグにおいても、プレーそのものの魅力だけではなく「コンセプト・世界観」や「ありのまま」の「人間性」を知ることで生まれる「基準を押し付けない共感性」が、スタジアムに人を呼び込むことにつながるのかもしれません。水元さんは、M A M A M O Oが支持を集めるのは等身大で「ありのまま」の女性そのものの姿を感じられるからだと言います。

「彼女たちにとって、すっぴんでメディアに登場したり、私生活をオープンにしたりすることはごく当たり前のこと。その結果、誹謗中傷を受けることも多いのですが……。心無い発言に対し、リーダーのソラは『スルーできるから気にしていない』と発言しながらも『人生ってなんて苦いの?』と涙を流したことも。トップアイドルといっても、涙を流す姿は等身大の女性そのものです。

心無い発言に傷つきながらも、ただ落ち込むのではなく『私は私なのだから放っておいて』と言える強さ。抑圧や批判に屈さない彼女たちの姿は『ありのまま』を大切にした結果だと考えています。」

では、水元さんの目に、WEリーグはどのように写っているのでしょう。WEリーグは「ガールクラッシュ」と親和性があるのでしょうか。聞いてみました。水元さんの答えは、迷いなく「Y E S」でした。

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