膝前十字靭帯の怪我人を一人も出したくない 欧州16強入り UEFA女子チャンピオンズリーグに鍼灸技術で挑む原辺允輝さんが感じたオーストリア強豪チームの怪我防止策
「フィジオセラピスト(トレーナー)を目指す若い人たちには『女子サッカーは世界中にある』『海外という選択肢もある』ということを意識してほしいです。早く海外に出れば27歳で女子サッカーの最高峰・UEFA女子チャンピオンズリーグに関わるチャンスも得られると思います。」
そう話したのは原辺允輝(はらべよしき)さんです。現在は27歳。2022年から鍼灸の技術を活かしてオーストリア・女子ブンデスリーガ1部の常勝チームで働いています。SKNザンクト・ペルテンは屈指の強豪チームです。UEFA女子チャンピオンズリーグのベスト16に進出しました。
JAAAAAAAAAA!!!! 😍😍😍
Unsere Wölfinnen ziehen dank eines 2:2 nach Verlängerung gegen Kuopio in die Gruppenphase der Champione League ein!!!! 💪
Unglaubliche Leistung, Mädels! 😁 #meinSKN #weareone pic.twitter.com/eCi8S8DUE1
— SKN St. Pölten (@SKNStPoelten) September 28, 2022
今回はフィジオセラピスト(フィジオ/トレーナー)の視点から女子サッカー選手の怪我防止ついてご紹介します。日本では、WEリーグの一年目シーズンに膝前十字靭帯の怪我人が多数発生してしまいました。何か共通の原因があるのか?なでしこリーグ時代よりも怪我人は増えたのか?それとも、以前から怪我人は多かったのか?WEリーグのメディアブリーフィングや日本サッカー協会 佐々木則夫女子委員長の記者会見で話題になったものの、詳しい状況や理由は明らかになっていません。そこで #女子サカマガ では、欧州女子サッカーの最前線で活躍しているフィジオセラピスト(フィジオ/トレーナー)に取材したいと考えていました。そのタイミングで原辺さんの紹介を受け、こうして記事化することができました。「膝前十字靭帯の怪我人を一人も出したくない」と言う若い日本人フィジオセラピスト(フィジオ/トレーナー)は、欧州の最前線で、どのような仕事をしているのでしょうか。
大学を卒業しカンボジアからオーストリアへ
原辺さんの、ここまでの経歴を紹介しましょう。原辺さんは森ノ宮医療大学を卒業後に米国での短期間のインターンを経て、2019年9月からカンボジアのアンコールタイガーF Cでフィジオセラピスト(フィジオ/トレーナー)の仕事を始めました。アンコールタイガーF Cは日本人がオーナーのクラブです。
原辺さんは2022年2月にオーストリアに渡ります。原辺さんがオーストリアで最初に所属したFC ヴァッカー・インスブルックは1913年に創設された古豪クラブ。当時、トップチーム がオーストリア・ブンデスリーガ2部、セカンドチームが3部、女子がオーストリア・女子ブン デスリーガ1部で戦っていました。
原辺さんはセカンドチームをメインに担当し、女子チームも一端を担当しました。セカンドチームは10代の選手が大半のアマチュアチームでしたが、トップチームが使用しないときはトップチームのリカバリー施設を使用できました。原辺さんは、その整った環境に圧倒されたと言います。
最初のシーズンを終え、原辺さんはSKNザンクト・ペルテンに移籍します。SKNザンクト・ペルテンは2つのクラブの合併で2000年に設立された歴史の新しいクラブですが2015―16年シーズンにトップチームがオーストリア・ブンデスリーガ1部に昇格。そして、その前年の2014―15年シーズンには2部所属チームとしては異例のU E F Aヨーロッパリーグ出場も果たしています。前身クラブにはマリオ・ケンペス選手(W杯78得点王)、イヴィツァ・ヴァスティッチ選手(元名古屋)といった名選手が所属していたことでも知られます。
女子チームはオーストリア・女子ブンデスリーガ屈指の強豪で過去8年間に7回優勝。カップ戦は過去9年間に8回優勝しています。
勝った!勝った!勝った! #UEFA女子チャンピオンズリーグ 。欧州トップ16クラブだけの本戦グループステージへ。監督選手スタッフ誰もが夢に見る舞台に行きます。日本人トレーナーとしてこの最高の瞬間に立ち会えたことに感謝です。この #SKNザンクト・ペルテン は自分の誇りです。#UWCL #女子サッカー pic.twitter.com/KM9wVZiN4s
— よしき 鍼灸@欧州サッカー (@World_shinkyu) September 29, 2022
徹底されている「食事とマッサージが一番のリカバリーだ」
原辺—女子チームはチームドクターが1人、主任のフィジオが1人いて、僕ともう一人の合計3人で選手を触っています。主任が作ったメニューに従って選手をサポートしています。選手がプレーできるコンディションかどうかの判断をする権限はフィジオが握っています。フィジオが「プレーさせたくない」と言えば監督はメンバーから外さなければなりません。お互いにリスペクトして仕事をしています。GPSで数値を確認するのはもちろんですが、週の初めにアンケートを行なって選手のメンタルの状況も把握しています。
クラブ全体で「食事とマッサージが一番のリカバリーだ」という共通認識があります。「試合を終えたら良い食事を摂れ」と徹底されており、リカバリーのスコア表がフィットネス・ルームに貼られています。いろいろな項目があり、合計で100点を超えるようにしようと呼びかけています。みんなの日頃の感覚に、リカバリーの方法が自然に刷り込まれていると思います。
—オーストリアの女子サッカーは欧州でも上位のランクですね。 ※2022年8月5日発表F I F Aランキング20位
原辺—先日のFIFA女子ワールドカップ予選では、オーストリア女子代表のスタメン全選手が外国のクラブでプレーしていました。ただ、今、オーストリア女子代表選手のうちの7人はSKNザンクト・ペルテンの出身です。選手がここから外国に旅立っていくので「選手の将来を担っているクラブ」でもあります。だから、普段のマッサージも「これも選手の将来につながるんだ」と思いながら行っています。
—SKNザンクト・ペルテンはUEFA女子チャンピオンズリーグに出場しました。原辺さんの目標を、また一つ達成したのではありませんか?
原辺—サッカーに関わり始めたら、いずれは欧州のトップレベルでやりたいと思っていました。ですから、欧州のトップの舞台はワクワクしますね。選手の表情もUEFA女子チャンピオンズリーグが近づくと変わります。うちのクラブは国内リーグでは優勝しては当たり前の位置付けなので、どちらかというとUEFA女子チャンピオンズリーグが本番のような感じです。そして、やるからには楽しむ雰囲気になっています。
膝前十字靭帯の怪我を防ぐ、チームとして週に2回のフィジカルトレーニング
原辺—こちらの女子チームはフィジカルトレーニングが多いです。週に2回は、午前中のトレーニングの後にフィジカルトレーニングがあります。チームとしてフィジカルトレーニングを1時間30分から2時間程度やります。肉離れを防止するエクササイズや膝の安定性を高めるエクササイズのメニューが入っています。もちろん持久力全般のトレーニングも行います。
—試合やボールを使ったトレーニングの中での予防よりも、予防につながる身体づくりが目立ちますか?
原辺—そう思います。
(残り 1941文字/全文: 4984文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ