WE Love 女子サッカーマガジン

WEリーグは推し活を応援することで伸びる 「萌え」と「推し」は感情のベクトル(方向)が逆

WEリーグの岡島喜久子チェアが「友人かどなたかを連れてきて」と話す記事が2022年5月3日に日本経済新聞に掲載されました。『スポートピア』というリレー連載です。「WEリーグのコアなファンの8割は男性で、お一人様で観戦されている姿も見かける。あの方々が、友人かどなたかを連れてきてくれたら。コア層のお力添えがあれば、ライト層をサッカーへ引き込むハードルも少しは低くなるのではないか。」というのです。記事の見出しは「集客アイデア、一歩ずつ」でした。

「推し」ファンがスタジアムや選手の魅力を発信していくことでWEリーグの集客が変わっていくかもしれません。岡島喜久子チェアの願いを叶えるために、WEリーグを楽しむ仲間の輪を広げる環境を整備すると、なお良いと筆者は考えます。

「萌え」と「推し」は感情のベクトル(方向)が逆

ところで「萌え」に注目が集まっていたのは過去のこと。近年は「推し」に注目が集まっています。「萌え」と「推し」は似ています。しかし、行動のベクトルが全く逆方向なのをご存知でしょうか。中山淳雄著『推しエコノミー』(日経BPマーケティング)では、「推し」を以下のように定義しています。

推し」は、以前は主に女性の世界だけに閉じていて、例えば宝塚やジャニーズに昔から見られた現象である。舞台演劇の数十人のキャストの中で、まだ若手の特定の俳優・タレントを「推し」として入れ込み、その推しタレントが団体の中でどんどん成長・出世していく様をともに喜び、ともに感動する。

それに対して、「萌え」は、いわゆるかわいいキャラクター・タレントへの恋愛とも性愛とも言えない愛情表現をいう。一緒に何かをしていくことを重視する「推し」に対して、「萌え」は対象への内的な感情を重視する。

「萌え」と「推し」を図に示すとこのようになります。感情のベクトル(方向)が全く逆向きであることが重要なポイントです。

社会に、選手・チームの良さ・特徴を知らせる「推し」ファンの行動力

「萌え」ファンは個人で高額な消費行動をしてくれることで以前から注目を集めてきました。多くは優良な顧客です。ただし、観客を増やすための行動に、あまり積極的に参加しない傾向が強いです。なぜなら、対象者(選手)が社会から広く認知されることは、対象者(選手)から自分の方向に、より太い認知のベクトルを向けてくれることにつながらないからです。

筆者は、ライト層をサッカーへ引き込むためには、「萌え」ファンを維持しながらも選手の良さや特徴を社会へ発信してくれる「推し」ファンを増やす必要があると考えます。では「萌え」ファン、「推し」ファンとは、どのような人たちなのでしょうか。

「推し」ファンの特徴は調査データにも現れています。2020年7月にマイナビティーンズラボは13―19歳のマイナビティーンズ女性会員276人を対象にアンケート調査を行いました

その調査によると、ジャニオタ(ジャニーズ)を含むオタ活(推し活動=推し活)を行っている理由として2点の回答が目立ちました。「推しを応援したいから(90%)」と「癒やされるから(70%)」です。応援はその推しタレントが団体の中でどんどん成長・出世していく様を共に喜び、共に感動する「推し」ファンの特徴と合致します。

一方、このオタ活(推し活動=推し活)の調査の中に「萌え」ファンの特徴と合致する回答者数は少なく「認知されたいから(19%)」「自分のことを好きになってほしいから(7%)」「自分の手で育てたいから(6%)」にとどまっています。

「推し活」に必要な写真や動画でのビジュアルコミュニケーション

大宮アルディージャVENTUSを応援するちさとさんは、スタンボー華選手を強く「推し」ます。スタンボー華選手が登場するウォーミングアップを、ゴール裏スタンド最前列で見守ります。スタンボー華選手の理屈抜きのカッコ良さに心を奪われる女子ファン・サポーターが多数います。彼女たちは「推し」ファンであることを自認し、「推し」の魅力をSNSで発信しています。

「推し」ファンは感情のベクトル(方向)を外に向けてコミュニケーションする傾向が強いので、「推し」ファンが共に「推し」を応援する行動をとることが容易です。そのために、同じ「推し」ファン同士のコミュニティがスタンドに生まれています。その輪は、今後も広がることでしょう。

しかし「推し」ファンは自然に増えるわけではありません。現在のWEリーグの「推しが生まれにくい環境」を改め、誰もが、選手やチームに「推し」のアクションを起こしやすい環境を整備していくことが必要なのではないでしょうか。

例えば、WEリーグは、ファン・サポーターが撮影した肖像(写真や動画)をネットに公開することを禁止しています。「どなたかを連れてきてもらう」ためにはネット上のコミュニケーションが重要なのですが、規定通りの行動をするとそれができないのです。グーグルによれば、ネットショッピングをする人の50%が、「意思決定にビジュアルが役立つ」と答えています。現在の「推し」を応援したくても、その思いをビジュアルコミュニケーションで伝えにくい環境がWEリーグにはあります。

WEリーグの写真使用における禁止事項の一番目に「自費出版物、ならびに個人・グループなど任意で行うインターネット活動などでの肖像使用」があります。映像利用規程の「個人で録画した映像利用」の項目で「個人がビデオ、DVD 等、PC・スマートフォン等に収録した映像を、有料・無料にかかわらず、配布したり、公の場で放映することは禁じられています。」を掲げ、ネットでの公開(公の場)を明確に禁止しています。「報道以外の利用(商業利用含む)」では、使用する側は事前に WEリーグに申請し、承認を得なければなりません。

こうした禁止事項は存在が広く知られておらず守られないことも多いですが、WEリーグを深く愛している人の多くが、厳密に守っている印象です。また、影響力の大きいインフルエンサーやタレント活動等をされているサッカーファンの多くは禁止事項を遵守し写真を含む発信を自粛しています。写真や動画でコミュニケーションを行うことが当たり前の近年、こうした規定は発信量の低下につながり推し活に深刻な影響を与えています。

#女子サカマガ では、アンケート調査を実施しました。インターネット上への写真の公開に反対およびどちらかというと反対の人は合計で10.1%しかいないことが分かりました。

2022年5月14日に国立競技場で開催されたINAC神戸レオネッサと三菱重工浦和レッズレディースの対戦(第21節)には、たくさんの女性が来場しました。例えば、彼女たちが国立競技場で撮影した写真のコンテストを行えば、多くの写真がネットに拡散され、WEリーグは、さらに多くの同年代の女性ファンへWEリーグの魅力をリーチすることができたはずです。写真や動画のネット公開が解禁されれば、ファン・サポーターは自らも、WEリーグの理念を拡大するプロセスの中に参加し、もっと積極的にWEリーグを応援することができるのです。「自費出版物、ならびに個人・グループなど任意で行うインターネット活動などでの肖像使用」「報道以外の利用(商業利用含む)」の項目は改正してほしいです。

なでしこリーグは写真や動画の投稿を解禁し積極的に活用

2022年5月27日に、なでしこリーグが、なでしこリーグ公式試合が行われるスタジアムとその周辺で撮影した写真や動画をインターネット上に投稿することを解禁しました。5月28日、なでしこリーグ2部の大和シルフィードは『プロカメラマン体験&講習会(観戦チケット付き)』を開催。このチケットを購入したファンは、講習会に参加し、ウォーミングアップや試合を、ピッチレベルのスチールカメラマンエリアから撮影しました。試合後は、多くの写真がインターネット上に公開され、大和シルフィードの選手の魅力が広がりました。スタンドからも多数の写真が撮影され、インターネット上に公開されています。また、大和シルフィードは写真の投稿を促す発信を行なっています。

「かわいいと表現してはならない風潮」を積極的に解消すべき

もう一つの制限として「WEリーグ かわいい等はNG問題」があります。WEリーグはジェンダー平等をはじめ「みんなが主人公になるためにプレーする」を推奨し、性別、障害の有無等に関わらず、誰もが個性を発揮できる社会の実現を目指しています。これは、本来であれば「多様な価値を認める」考え方なのですが、現実には「かわいい」という個性が否定されがちな状況が生まれています。本来は「かわいい」という個性が悪いのではなく、「かわいい」を女性に強要して優劣の指標にしてはならないという考えだったはずです。

アンケートをご覧ください。「かわいいと表現してはならない風潮がない」と感じる人は23.2%しかいません。WEリーグは、意図せず窮屈な印象を与えています。

WEリーグは、この窮屈さを解消する施策を早急に投下すると、今後のコミュニケーションが良い方向に進みそうです。

この動画をご覧ください。アメリカ女子プロサッカーリーグNWSLNational Women’s Soccer League)のNJ・NYゴッサムFCが発信している動画です。スタジアムのバックヤードにレッドカーペットを敷いて、スタジアム入りした選手が私服姿でポーズをとっています。川澄奈穂美選手のツイートによりますと、この動画はホームゲーム開催ごとに制作され、希望する選手のみが登場しています。

(残り 1870文字/全文: 6065文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ