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ウクライナ避難民選手・住民を受け入れるクラブでプレーするということ ポーランド女子サッカーリーグ優勝 圓乘由里奈選手(UKS SMSウッチ)

ポーランド女子サッカーの歴史が塗り替えられました。若いチームであるUKS SMSウッチがポーランド女子サッカーリーグを優勝したのです。UKS SMSウッチの主力選手として活躍するのが圓乘由里奈(えんじょうゆりな)選手です。2020―2021シーズンの結果はリーグ戦2位。女子ポーランドカップも2位。惜しくもタイトルに手が届きませんでしたが、2021―2022シーズンは最終節を残してリーグ優勝を決めました。昨シーズンとの違いはどこにあったのでしょうか。

優勝セレモニー  提供:UKS SMSウッチ

ポーランドはウクライナの隣国です。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ロシアによる軍事侵攻を受けてこれまでに約600万人がウクライナから国外に逃れたということです。そのうち、約300万人がポーランドに避難しています。圓乘選手はウクライナ戦争と、どのように接してきたのでしょうか。UKS SMSウッチは、どのようにウクライナからの避難民に手を差し伸べてきたのでしょうか。

今回は、現地ならではの臨場感あふれるお話をお聞きしました。UKS SMSウッチの協力を得て、ウクライナから移籍してきたユリア・ズーバ選手のお話もお届けすることができました。ありがとうございました。ユリア・ズーバ選手のお話は記事の後半でご紹介します。

圓乘由里奈選手 提供:UKS SMSウッチ

戦術はそれほど変わっていないがチームで一緒に行動する機会が多くなった

優勝おめでとうございます。昨シーズンと今シーズンで何か変わったところはありますか?

圓乘去年よりも、チームで一緒に行動する機会が多くなりました。後期シーズンは1試合だけ負けました。その試合後にキャプテンが「集まろう」と声をかけてくれて、ゆっくりと話をして次の試合に勝てました。雰囲気が良くなりました。選手それぞれが、個人として、自分の課題を考えているように感じるようになりました。戦術はそれほど変わっていないと思います。

例えばチームメイトで一緒にボーリングに行ったり、リフレッシュしたりすることが増えました。キャプテンが積極的に声をかけています。結構楽しいですよ(笑)。ピッチで見るいつものチームメイトとは違う面が見られます。

ご自身のプレーはどうでしたか?

圓乘チームメイトが助けてくれましたね。それと、本を読んで刺激を受けて自分の考え方が変わりました、(読むのは)アドラー心理学とか。自分の苦手な部分に目を向けられるようになりました。今シーズンは、試合を動画で分析して、コーチと徹底的に話して、次の練習で試行錯誤しています。少しずつ失敗から学んで自分が強くなっている部分はあると思います。

優勝セレモニー  提供:UKS SMSウッチ

6月に帰国し女川でプレー

2022年6月19日に女川スタジアムで開催される『第2回 欧州組集結チャリティーマッチ in 女川』プロタゴニスタVS 早稲田大学ア式蹴球部女子に参加されますね。

圓乘去年も参加したかったのですが、シーズン開幕時期の開催だったので参加できませんでした。今年も声をかけていただきました。今年は最終節後の開催なので参加することができます。

久しぶりに帰国して、日本で披露したいプレーはありますか?

圓乘いつもは一緒にプレーしていない選手が一緒にプレーするので、どのようにコミュニケーションをとってプレーできるのかを見せたいですね。私が実際に会って知っている選手は2人くらい。他は、みんな「初めまして」です。インスタライブとかで接点がある人が多いので一緒にプレーするのが楽しみです。日本と海外のちょっとしたプレーの違いを見ていただけると思います。宮城県は仙台市にしか行ったことがありませんでした。女川町は自然に溢れた海の近くの街らしいですね。

人種、国籍、様々なルーツを持つ選手が所属する 提供:UKS SMSウッチ

ウクライナからの避難民を受け入れているクラブ

ポーランドで生活してウクライナ戦争を感じることはありますか?

圓乘街に人が増えたと感じます。平日の昼間でも人が多いです。ウクライナから避難されてきた人が多いからだと思います。以前とは、雰囲気も人の数も違います。ウッチはポーランド第3の都市で首都のワルシャワよりも西にありますが、それでも人が増えていることを感じます。

ポーランドはウクライナ支援に力を入れています。戦争が始まった直後の3月くらいに、チームメイトと「何かできることをしたいね」「この状況が早く終わってほしいな」と盛んに話していました。シリアスな感じで、最初の2〜3週間は危険を感じながら、朝、起きると「ポーランドは大丈夫かな?攻撃されていないか?」とニュース確認していました。色々な情報が流れてきたので、その真偽を判断するのが難しかったです。「ロシア軍がポーランドに攻め込んでくるかも」という情報までありました。

ポーランドに住んでいる日本人にも多種多様な人がいて、圓乗選手のように、様々な国籍の人たちと接して色々な意見を聞ける環境は珍しいのではないかと想像しました。圓乗選手は「チームメイトがいて良かった」と感じたことはありますか?

圓乘ありますね。現地の子から(ポーランド語の情報を英語に訳して)情報を聞けるので心強かったです。

ウクライナから移籍してきたユリア・ズーバ選手 提供:UKS SMSウッチ

圓乘所属チームのUKS SMSウッチはウクライナからの避難民を受け入れています。ウクライナから避難してきた人が、私たちの住んでいる寮で働けるように雇用しているのです。住む場所や食事も提供しています。ウクライナ戦争に対するチームの行動は早かったです。

圓乗選手は、ウクライナから避難してきた人のすぐ近くで生活しているのですね。

圓乘そうです。ポーランドでは、それが当たり前です。

圓乗選手らが生活するUKS SMSウッチの寮 提供:UKS SMSウッチ 

ウクライナはサッカーが盛んな国です。ポーランドに避難してきた人が「どこか働ける場所を探さなければ」と考えたときに「どこの誰だかわからない会社」ではなく、名の知れたフットボールクラブが仕事、住居、食を提供してくれることは、とても安心できると思います。いかがですか?

圓乘そうですね。UKS SMSウッチはきちんとしたクラブで、生活できる環境も揃っている。ウクライナからの避難民に安心を提供できると思います。

ウクライナ女子サッカーリーグのクラブから選手が移籍してきたそうですね?

圓乘ウクライナ女子サッカーリーグが打ち切りになってしまったのでユリア・ズーバ選手が移籍してきました。チームメイトとして普通に受け入れ英語で会話していました。

今回の戦争について、ポーランドに住む人として、どのように感じていますか。

圓乘一方的な情報だけを鵜呑みにしないように心がけて生活しています。戦争は早く終わってほしいです。苦しんでいる人が身近にいて心が痛いです。早く、みんなが笑顔でボールを蹴れるようになってほしいですね。

(インタビュー:2022年5月10日 石井和裕)

優勝を決めた試合直後 提供:UKS SMSウッチ 

女子サッカーから知るウクライナ戦争

ウクライナ戦争は、どのような影響を生活に与えているのでしょうか。遠くの世界だと感じられる戦争を、私たちは女子サッカーを通じて知ることができます。今回は、圓乗選手の仲介により、UKS SMSウッチとユリア・ズーバ選手に取材することができました。他では感じることができない、現地の声をぜひお読みください。

(翻訳:寺田美穂子)

まずは、圓乗選手が所属するUKS SMSウッチに、ウクライナ支援の方針と女子サッカーへの影響のお話をお聞きしました。UKS SMSウッチは、どのようにしてウクライナからの選手を受け入れているのでしょうか?

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