WEリーグとJリーグとの連携に効果と限界 新しい「ワクワク価値」提供のため「Jリーグのミニチュア版」のような運営形式から脱する必要がある
今回は、WEリーグとJリーグとの連携について考えます。これまでの連携に効果はありました。しかし、連携は万能ではありません。連携の限界を感じる数字もあります。WEリーグは、これから、Jリーグと、どのような連携をしていけば良いのでしょうか。
“マスコット大運動会”をきっかけにWEリーグに通う
アウェイ旅とマスコットが好きなJリーグクラブサポーターのHさんは、Jリーグクラブとノジマステラ神奈川相模原のコラボ企画をきっかけに、相模原ギオンスタジアムに足を運ぶようになりました。最初に観戦したのは2021年10月10日。ノジマステラ神奈川相模原が、神奈川県内のJクラブのマスコットを集めて“マスコット大運動会”を開催した日です。Hさんはマスコットが好きなのでとても気になるイベントでした。しかも、マスコットが所属するクラブのファンクラブ会員は割引価格でWEリーグを観戦できるので、初観戦に十分な動機付けとなったそうです。
「座席は、マスコット運動会が見やすいように、また割引価格に感謝の気持ちで、少しホーム寄りのメインスタンド自由席にしました。ノジマステラ神奈川相模原のマスコットのももちゃんに初めて会いましたが、動きの可愛さやファンサービスですっかり好きになってしまいました。すごく面白い試合で、選手のかっこいいプレーを見て、純粋にサッカーを楽しんで帰りました。面白かった!行ってよかったなーまた行きたいなと帰り道に思っていましたし、他のチームや他の試合も見てみたいという気持ちです。」
WEリーグ各チームは、Jリーグとの連携に積極的です。連携することで、サッカーが好きなJリーグのファン・サポーターがWEリーグも観戦してくれるのではないか、という期待が、その背景にあります。
それなりの収穫を得られたJリーグとの「ダブルヘッダー」
2022年4月23日に開催された2021−22 YogiboWEリーグ 第18節 日テレ・東京ヴェルディベレーザ VS ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、5月8日に開催された2021−22 YogiboWEリーグ 第20節 アルビレックス新潟レディース VS 日テレ・東京ヴェルディベレーザがJリーグとの「ダブルヘッダー」で開催されました。1枚のチケットでJリーグとWEリーグの合計2試合を観戦できる特別な試合を多くのスポーツメディアが報じました。また、この試合を通して、初めてWEリーグ優勝トロフィーを知ったJリーグのファン・サポーターも多く、展示されたトロフィーを撮影した写真がSNSで拡散されました。その数は通常のWEリーグの試合会場でのトロフィー展示と比べるとはるかに多かったです。広報活動の面では「ダブルヘッダー」は大きな成果を残したと考えられます。
その反面、集客効果は思惑通りに運びませんでした。日テレ・東京ヴェルディベレーザ VS ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの入場者数は1千591人、アルビレックス新潟レディース VS 日テレ・東京ヴェルディベレーザの入場者数は1千262人。WEリーグが目標としている1試合あたりの平均観客数5千人には及びませんでした。ただ、日テレ・東京ヴェルディベレーザもアルビレックス新潟レディースも、この試合は、それぞれの平均観客数を大幅に上回った入場者数だったので、一定の成果はあったと考えられます。
とはいえ、5千人には及ばなかった入場者数には、落胆の声も多く起こりました。特に、その原因として厳しく指摘を受けたのが、2つの試合のインターバルの長さです。日テレ・東京ヴェルディベレーザ VS ジェフユナイテッド市原・千葉レディースのキックオフはJリーグの試合終了時刻から約2時間後でした。過去に、なでしこリーグの「ダブルヘッダー」が90分間のインターバルで開催された実績があります。また、オーストラリアのAリーグ・ウィメンとAリーグの「ダブルヘッダー」は40分間のインターバルで開催されています。WEリーグによると「ダブルヘッダー」のインターバルは120分以上とする規定があり、それに則って開催されたとのことです。しかし、開催後は「インターバルが長い」というファン・サポーターの声がWEリーグに届いており、開催直後からインターバルの時間短縮に向けてJリーグと協議を開始しています。
過去に絶大な効果を生んだ成功事例があった
なでしこリーグの「ダブルヘッダー」では、過去に大成功事例があります。なでしこジャパン(日本女子代表)が世界一に輝いた直後の2011年8月に開催された「ダブルヘッダー」です。
2011年8月6日(土)東北電力ビッグスワン
2011プレナスなでしこリーグ第2節
アルビレックス新潟レディース VS INAC神戸レオネッサ
15:30キックオフ 入場者数2万6049人
(インターバル90分間)
2011Jリーグディビジョン1第20節
アルビレックス新潟 VS 清水エスパルス
19:00キックオフ 入場者数3万7830人
なでしこリーグの入場者数2万6049人は今も更新されていない女子サッカー国内リーグの最多入場者数記録です。Jリーグの入場者数3万7830人はアルビレックス新潟にとってこのシーズンの最多入場者数でした。アルビレックス新潟の、このシーズンの1試合平均入場者数が2万6049人だったことを考えると、女子サッカーの試合も楽しみに、いつもより1万人以上のファン・サポーターが集まったという計算になります。この日の「ダブルヘッダー」は、双方にとって大きなメリットがあった成功例として記憶されています。
「ワクワク価値」で心ときめくとファン・サポーターは集まる
なぜこのときは「ダブルヘッダー」が成功したのでしょう。Jリーグとなでしこリーグの「ワクワク価値」が相互にプラスに作用したことが原因と考えられます。
商品設計をするときに、「当たり前価値」と「ワクワク価値」の2つの価値を分けて整理する考え方があります。「当たり前価値」は品質を保障する上で当然の如く担保されていなければならない価値のことです。「一定以上のレベルのサッカーを披露すること」「椅子や屋根といった観戦環境の整備されたスタジアムで開催すること」「駐車場やシャトルバスが完備されアクセスに不便がないこと」等が挙げられます。その多くはJリーグとなでしこリーグの間に差がありません。
(残り 3286文字/全文: 5876文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ