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日本の女子サッカーの男女格差是正は?男子選手と同じ報酬を求めたアメリカ女子代表の訴えが和解 【石井和裕の #女子サカマガ PKど真ん中】

ジェシカ・チャステインさん、ナタリー・ポートマンさん、エヴァ・ロンゴリアさんやジェニファー・ガーナーさん等ハリウッドの女優たちも応援活動を展開していた注目の裁判は和解に至りました。

アメリカのメディア各社はアメリカサッカー連盟の発表を受け、アメリカサッカー連盟が総額2千400万ドル(約27億6千万円)を選手に支払うと伝えています。この裁判は、アメリカ女子代表の選手たちが、男子の代表選手よりも報酬が低いのは性別に基づく差別にあたるとして、同じ水準の報酬の支払いを求めたものです。

今回は、サッカーの男女格差是正問題を解説します。前半では「女子サッカーの稼ぐ力」について触れますが、後半では「女子サッカーの稼ぐ力」が男女格差是正の絶対条件ではないという筆者の考えを説明します。

「もっと早く和解すると思っていたが2年かかった」岡島喜久子チェア

「サッカー能力が男女では異なるのは議論の余地がない科学」「女子選手と比べて、男子の代表チームの選手にはより大きな責任が求められている」「男子代表チームは比較的『敵対的』なファンがいる環境でプレーするのに対し、女子代表はより『友好的』なファンがいる環境で試合をする」という「石器時代のような主張」を含む文書を裁判所に提出したアメリカサッカー連盟の会長カルロス・コルデイロ氏が、選手、ファン・サポーター、スポンサーから猛反発を受け辞任したのは2020年3月。後任の会長はシンディ・パーロー・コーン氏となっていました。シンディ・パーロー・コーン氏は殿堂入りしている元アメリカ女子代表のレジェンドです。この和解についてWEリーグの岡島喜久子チェアは、2022年2月24日のメディアブリーフィングでシンディ・パーロー・コーン氏の経歴に触れた上で「もっと早く和解すると思っていたが2年かかった」とコメントしました。

今回の和解は、なぜ実現したのか、そして、なぜシンディ・パーロー・コーン氏の会長就任から2年間を要したのでしょうか。また、日本のサッカー界に男女格差是正は存在するのか、そして存在するとしたら格差是正は実現するのでしょうか。

2019年から始まった裁判 

この裁判の発端は2019年まで遡ります。アメリカ女子代表の選手28人(アメリカ女子代表選手組合)が、2019年3月に、ロサンゼルスの連邦地裁へ訴訟を起こしたのです。当初からの主な主張は「アメリカサッカー連盟の行為は公民権法第7章とEqual Pay Actに違反する」というものでした。

・試合時間、フィールドやボールのサイズ、試合ルールは男女とも同じであるなど、女子代表は男子代表と同様の環境下で試合を行っている。
・男女の代表選手は同様のスキル、努力と責任を求められている。
・女子代表は男子代表より多くの試合数をこなしている(2015年~2018年の間で19試合多い)。 ※アメリカ女子代表の報酬は年俸で支払われている。
・試合の勝率や戦績もよく、試合のテレビ視聴率も高い。
・女子代表は男子代表より多く稼ぐ。

和解のポイントの一つは「女子サッカーの稼ぐ力」

アメリカサッカー連盟は、代表活動の報酬(賃金)を男女同じ水準で支払うことで和解しました。

現在、アメリカサッカー連盟公式サイトに掲載されている団体交渉に関するFAQによれば、アメリカ女子代表は2015年から2019年までは総額でも1試合換算でも、収益で男子を上回ったとしています。アメリカサッカー連盟が自らこれを認めています。

ここがポイントの一つとなったことは間違えありません。なぜなら、以前のアメリカサッカー連盟は、収益性も争点の一つとしていたからです。2019年にAP通信が伝えたところによると、アメリカサッカー連盟側の弁護士は「2008年から2015年までの男子の試合は女子の試合の倍以上の収益を生み出している」と主張していたのです。

2019年に『Markets Insider』に掲載された記事よると、アメリカ女子代表が着用する白のホームユニフォームが、Nike.com上において、1シーズンで史上最も売れたサッカーユニフォームになったといいます。「男子サッカーのバルセロナやブラジル代表をも上回る」と、ナイキのマーク・パーカーCEOが明かしています。この発言当時から、すでにアメリカ女子代表の人気は絶大。女子サッカーは、アメリカの花形スポーツです。

女子サッカー選手・関係者が自ら稼ぎ、男女格差是正の実現を後押ししたといえます。

注意点は「同じ水準」の対象が「代表活動の報酬(賃金)」だということ

現在、アメリカサッカー連盟公式サイトに、団体交渉中に経緯として次のような見解が掲載されています。

「アメリカ女子代表選手組合の要求はFIFAワールドカップの男女における報酬格差の是正にまで及んでいます。しかしFIFAワールドカップの報酬はFIFAがコントロールしており、アメリカサッカー連盟には権限がない。」

ここで重要なのは、今回、和解した男女格差是正の対象が「代表活動の報酬(賃金)」というところです。賞金は、これに含まれていません。

シンディ・パーロー・コーン氏は格差是正の根本的な問題解決をするために「FIFAワールドカップの賞金が男女平等になることを願っている」と2021年に発言しています。ちなみに、テニスの全米オープンの賞金は1973年から男女同額になっています。

日本代表選手の日当は日1万円(2011年発表)

和解のニュースは世界中で大きく報じられました。日本の女子サッカー界でも気になるニュースです。では、日本の男女における報酬格差はどのようになっているでしょうか。

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