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AFC女子アジアカップなでしこジャパンは高倉ジャパンと何が違うか 池田ジャパンを知る7つのポイント

PHOTO : 2022 Asian Football Confederation (AFC)

AFC女子アジアカップ3連覇を目指すなでしこジャパン(女子日本代表)が好発進。ミャンマー女子代表に1本もシュートを打たせず−0で快勝しました。この大会の上位5チームに入るとFIFA女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド2023の出場権が得られます。

出場権獲得と3連覇、2つの目標に向け、なでしこジャパンの戦いが始まりました。開催国はインドです。

2021年10月に就任した池田太新監督による新生なでしこジャパンは、これまでのチームとどのように違うのでしょうか。緒戦のミャンマー女子代表戦と、選手・関係者の証言から、少しずつ池田ジャパンの姿が見えてきました。

今回は、池田ジャパンを知る7つのポイントをご紹介します。

1 ポジショナルをベースとした采配
2 前から奪うが前がかりになりすぎない冷静なチーム作り
3 左サイドバックは相手によってはセンターバック経験者
4 ツートップのコンビネーションを大切に
5 適確なスカウティングが選手を救う
6 世界一の遺産はほぼ清算
7 おじさん2人による万全のバックアップ

1 ポジショナルプレーをベースとした采配

ミャンマー女子代表で、まず目に留まったのは、近くなりすぎない選手の距離感でした。ピッチ上のボールの位置と相手選手の陣形を踏まえて、選手たちが正しいポジショニングをしていこうとする考え方が見えました。自陣の中央を固める多数のミャンマー女子代表選手の前後左右の距離を引き離すために、適切な距離をとって、できるだけパススピードを速めてボールを動かそうとする意図が感じられました。

高倉麻子監督の時代も、同様にポジショナルプレーをベースとした采配が行われていました。ただし、それが明確だったのは後期のみ。前期は、かなり自由奔放にポジションを動かすサッカーでした。そのせいか、FIFA女子ワールドカップフランス2019では、外にいるべき選手が中央に入ってプレーしてしまい、選手の距離が近くなりすぎて攻撃が膠着するシーンも見られました。全ての選手に采配が徹底されているとは言い難い状況でした。

池田監督は、これを徹底しました。また、ピッチ上の判断でポジションが崩れてしまうことを避けるため、明確な指示で選手に迷いの余地を与えなかったと思います。特に印象に残ったのは、後半からの布陣です。前半は決め手に欠いた左サイドに宮澤ひなた選手、右サイドに長谷川唯選手の布陣をハーフタイムでテコ入れしました。後半からは宮澤ひなた選手を得意の右サイドに、長谷川唯選手を得意の中央に……ただし中盤ではなくツートップの一角に置いたのがポイントです。長谷川選手は前後左右に仕掛ける動きが大きな選手。これをツートップに置くことで、各選手の適確なポジションを崩すことなく長谷川選手の個性を生かすことに成功しました。同時に、前半はやや窮屈だった宮澤選手も右サイドで生き生きとプレーすることが多くなりました。チームの舵取り役として、左右に流れすぎない長野風花選手と猶本光選手を最後までボランチで起用しました。

「相手の守備陣を動かすようにダイナミックに動こう」というのが池田監督のハーフタイムの指示でした。長谷川選手は「後半はコンビネーションが多くできました。前半からもコンビネーションを使っていければ、前半から多くの点が取れていたと思います。意識してやっていきたいです。」と話しました。

ピッチ上で選手自らが行うポジションチェンジがマイナスに作用すると攻撃も守備も機能不全に陥ることがあった、東京2020までのなでしこジャパンとは、明らかに異なる采配でした。配信したDAZNの解説を担当した福西崇史さんが話していた通り、女子選手は足元の技術が高いため、パススピードを速くすれば、さらにダイナミックな崩しを披露できそうです。

「パスのスピードや精度が勝ち切るために重要になってきます。準備スピード、パススピードにこだわってプレーしたいです。」と、試合前に話したのは宮澤ひなた選手でした。

2 前から奪うが前がかりになりすぎない冷静なチーム作り

池田監督のチームづくりのコンセプトとして注目を集めるのが「奪う」です。前線からコースを限定するだけではなく、ボールを「奪う」守備をすることで、高い位置で攻撃の起点を作り得点を増やそうという考え方です。この試合でのボール奪取は、まずまずの結果と評価できます。

ミャンマー女子代表戦は、ほとんどの選手をミャンマー陣内に押し込んだため、なでしこジャパンが攻撃にさらされることは全くと言って良い程ありませんでした。そのため「最終ラインの枚数を減らし、もっと攻撃の人数を増やして大量得点を奪いに行ってはどうか?」という感想を抱いた人も多いと思います。しかし、池田監督からは、明確な指示が出ており、前がかりになりすぎない冷静なチーム作りが進められていました。

猶本選手は、このように振り返ります。

「自分たちが攻め込んでいるときは、(自分たちの)後に大きなスペースがあります。攻め込んでいるときこそ一番危ないので、リスク管理を終始やっていました。」

また、清水梨紗選手は、両サイドバックのポジションについて言及しています。

「後ろのラインはバランスを意識していました。両サイドバックのどちらかは残るように(監督から)言われていました。」

タイトルがかかる大会ですが、池田体制になってまだ3試合目です。無理せず、まずはチームの型を丁寧に作り上げる段階なのかもしれません。

キャプテンとしてチームを牽引する熊谷紗希選手

3 左サイドバックは相手によってはセンターバック経験者

高倉監督も左サイドバックにボランチ経験者やセンターバック経験者を多く起用しました。偽サイドバックと呼ばれる、アンカー脇にサイドバックがポジションを移動する戦術を取り入れていたからです。

池田監督は、違う狙いで左サイドバックにセンターバック経験者を起用します。

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