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「地域おこし協力隊」制度を活用したヴィアマテラス宮崎 元海外女子プロサッカー選手が活躍 福丸智子選手インタビュー

2021年9月14日のNHK『ニュースウオッチ9』で齊藤夕眞選手が紹介され大きな反響を呼びました。おそらく、齊藤夕眞選手が所属するヴィアマテラス宮崎というチームをご存知ない方が多かったと思います。

ヴィアマテラス宮崎は2020年シーズンに活動をスタートした女子サッカークラブ。今シーズンから九州女子サッカーリーグ2部に参戦しました。齊藤夕眞選手(齊藤あかねから改名)ら、有力な選手を擁し、ここまでの戦績は5勝0敗、得失点差+52の首位を走っています。活動拠点は宮崎県新富町。人口約1万6千人の小さな町です。新富町は、総務省の「地域おこし協力隊」制度を活用し、選手を誘致。23人の選手のうちの17人が、「地域おこし協力隊」として地域課題に関わる仕事に従事しながら、試合に出場しています。

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期は概ね1年以上、3年未満です。

今回は、ヴィアマテラス宮崎で活躍する福丸智子選手に、この小さな町のサッカークラブについてうかがいました。福丸選手は高校を卒業後に日テレ・ベレーザ、伊賀FCくノ一三重、岡山湯郷Belleでプレーしたのちに豪州で女子プロサッカー選手として活躍。帰国後にヴィアマテラス宮崎に加入しています。また、アパレルブランド『SEVENF.(セブンエフ)』を展開。売上金の10%を世界の貧しい子供達や、女子サッカーの発展のために寄付しています。

福丸智子選手 提供:ヴィアマテラス宮崎

九州女子サッカーリーグ2部で全勝の快進撃

福丸新富町内の新型コロナウイルスに対する警戒レベル3(施設収容人数50%以内)の間は、観客上限は300人だったのですが、警戒レベルが下がってからは観客が増え、先日は417人。観客席もないグラウンドに、これほど多くの人が集まっていただいています。新富町のサッカーは少しずつ盛り上がってきました。

自分は、2020年に、オーストラリアのプロリーグから帰ってきて、一度は引退を決意していました。スポーツビジネスに関わりたいと思っていました。そんなときに、宮崎県で新しい女子サッカーチームが立ち上がることを教えてもらいました。自分はチームの立ち上げに魅力を感じました。

2021年の初めは、チーム運営をするつもりで宮崎県に来ていました。3月に、ヴィアマテラス宮崎が九州女子サッカーリーグ2部に昇格をするための大事な試合がありました。その試合に「選手として出場してほしい」という依頼を受けました。そこで、現役を続けることになりました。

地域リーグ2部では異例、多くの観客がピッチを囲み齊藤夕眞選手の活躍を見守る 提供:ヴィアマテラス宮崎

「地域おこし協力隊」として地域課題を解決しながらプレーする女子サッカー選手

福丸ヴィアマテラス宮崎では「地域おこし協力隊」として働きながら選手を続けることが出来ます。イベント、広報、農業、施設管理といったチームがあり、新富町役場と一緒に活動しています。自分は広報の仕事をしています。今まで、自分は、プレナスなでしこリーグでも海外のリーグでも、ピッチ上で結果を出すことだけを優先して生活してきました。今は、ピッチ上だけではなく「地域スポーツをどのように盛り上げていくか」を考えながら働き、選手としても毎日もおくっています。

—「地域おこし協力隊」で働いてみて感じたことはありますか?

役場との関わりが大きな仕事です。仕事をするには、役場が何を目指しているのかを知る必要があります。「地域おこし協力隊」で働くと、自分で役場に質問することが多々あります。そして、直接、答えをもらえます。仕事のスピードが早いです。新富町はサッカーと「女性の働く場所づくり」に力を入れていますから、とても楽しく働けています。

—これまで、スポーツクラブは、地域や行政から一方的に「支援を受ける」印象が強かったと思います。でも、選手の皆さんが「地域おこし協力隊」としての活動をすると、これまでは一方的だった支援が、双方お互いに支援することになるような感じがします。

「地域おこし協力隊」は、新富町の困っている人たちの助けとなる架け橋になるので、とてもやりがいがありますね。例えば、農業チームは、農家さんに教わりながら一緒に収穫した野菜を試合会場で販売しています。プレナスなでしこリーグでプレーしていたときには、ここまで地域に寄り添うことは、なかなか出来ませんでした。ここでは地域づくりが一番大切です。

—福丸さんは、以前より、尾田緩奈さん(女子フットサル:Shoot anilla)とアパレルブランド『SEVENF.(セブンエフ)』を展開されたりして、ある程度は広報の知識をお持ちだったと思います。でも、実際に「地域おこし協力隊」として地域を背負って発信するとなると新たな学びがあるのではないかと思いますが、いかがですか?

福丸毎日が新しい学びですね。自分たちが『SEVENF.』をやることと「地域おこし協力隊」として地域を背負って発信をすることを比べると重みが違います。言葉や写真の選び方は、より慎重になります。

—ヴィアマテラス宮崎は女子サッカークラブですが、他の女子サッカークラブとは理念や考え方が違うように感じますね。

福丸今までに所属したクラブとは違います。新たな取り組みです。今まで、自分は、プレーで色々な人にパワーを伝え、笑顔を見せたいと思ってきました。ヴィアマテラス宮崎は、ゼロから地域を巻き込んで、サッカークラブが地域を盛り上げていきます。それは自分にとって理想に近いクラブの姿です。そして、全国からこのクラブに加入した、色々な思いの選手たちの夢も叶えていきます。

農業チームの活躍 提供:ヴィアマテラス宮崎

地域リーグの2部でプライドマッチを開催

福丸南九州には、鹿児島県の神村学園と鳳凰高校という強いチームが2つあります。でも卒業後の進路は関東等、南九州の外となることが多いです。南九州では、プレナスなでしこリーグの試合を生で見るチャンスが少ないです。上のカテゴリーの高いレベルの女子サッカーといえば、鹿児島や宮崎で行われるトレーニングキャンプくらいでした。鳳凰高校でサッカーをしていた私も、当時、高いレベルの女子サッカーに触れていれば、もう少し視野を広げられたかもしれません。だから、ヴィアマテラス宮崎のような、上のディビジョンを目指すチームが生まれたことは、これからの子どもたちに良い影響を与えると思います。自分たちが九州の女子サッカーを盛り上げていきたいと思います。

—ヴィアマテラス宮崎はプライドマッチ(LGBTQら性的少数者への理解を深めてもらうための取り組みを行う試合)を開催しましたね。地域リーグの2部でプライドマッチを開催するのは異例で、とても凄いことだと思います。なぜ開催したのですか?

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