女子サッカー五輪史 魅力的なストーリーに溢れるなでしこジャパン(日本女子代表)
なでしこジャパン(日本女子代表)はMS&ADカップでオーストラリア女子代表を1−0で下し、東京2020直前、最後の調整試合を美しくフィニッシュしました。高倉麻子監督は「世界の中でも上位のスピードやパワーを体感しながら、前半は少し固いゲームになったなと思います。強度に慣れていって前半の修正ポイントを話しながら自分たちで流れを作ることができ、PKではありましたが勝利で終われたことは非常に良かったと思います。」と成果を強調しました。
この試合で明らかになったのは、なでしこジャパン(日本女子代表)の戦い方です。どうやら、ポジションチェンジは最少限に抑え、個々の選手がポジションを守ったプレーをするようです。FIFA女子ワールドカップフランス2019の初戦で自由にポジションを動かしていた長谷川唯選手も、この試合ではワイドのポジションに固定。センターのエリアに深入りすることはありませんでした。強豪国がひしめき合う五輪ですので、守備の組織を重視し、バランス良いポジションで対戦相手を迎え撃つ考え方と思われます。
さて、FIFA女子ワールドカップドイツ2011を優勝して以来、なでしこジャパンは国民的人気チームとして、FIFA女子ワールドカップ、五輪で一身に期待を背負って戦ってきました。過去を振り返ってみれば、女子の団体スポーツとしては異例の注目と盛り上がりを見せてきたといえます。これまでの五輪女子サッカーの歴史を、本大会前に確認しておきましょう。
チーム名のニックネームが浸透し、全国民の大きな期待を背負った女子の団体競技は、なでしこジャパン(日本女子代表)を除けば、1964年の東京五輪における女子バレーボールしかないかもしれません。
全国民からの期待 女子スポーツを変えた「東洋の魔女」インパール作戦から生還した猛者
1964年の東京五輪の2年前、1962年に世界選手権を制した選手たちは引退を考えていました。しかし、国民の大きな期待を受けて現役を続行。「東洋の魔女」と呼ばれるようになった全日本女子バレーボールチームは、1964年の東京五輪に臨んだのでした。
「鬼の大松」の異名をとる大松博文監督による長時間の練習で、必殺技「回転レシーブ」を習得したことがテレビで放映されていました。1964年の東京五輪では決勝のテレビ放送は平均視聴率66.8%を記録。今でも名場面として優勝決定の瞬間が放送されます。
大松監督は、太平洋戦争で最悪の作戦といわれるインパール作戦から生還した猛者。陸軍式にも通じる猛特訓を選手に行いました。「みんな、やめたかった。でも、五輪に出ないことは許されなかった。」と、のちに語っています。
従順でおしとやかさが美徳とされていた当時の日本の女性たち。しかし、猛練習の末に世界一となった「東洋の魔女」を見て、自らプレーを希望する主婦層が急増しました。そして、日本全国にママさんバレーブームが到来。主婦でもスポーツを楽しめる、新しいスポーツ・カルチャーが日本に広がったのです。「東洋の魔女」には「戦後からの脱皮」と「美徳からの逸脱」というストーリーがありました。
「感情移入できるストーリー」がそこにあるのか?
宇都宮徹壱さんによれば、近年の男子の日本代表には「スポーツ観戦の肝ともいえる『ドラマ』と『ストーリー』が、ほとんどと言ってよいほど感じられない」のだそうです。確かに、ワールドカップ出場常連国となった男子の日本代表の戦いは「アジアで勝てて当たり前」という試合が多く、それでいて世界のベスト8の壁は高く「感情移入できるストーリー」が見えなくなってしまっています。
では、なでしこジャパン(日本女子代表)はどうでしょう。これまでの五輪で紡いできた、ストーリーを振り返ってみましょう。
1996年 アトランタ五輪 女子だってサッカーをやっていることを知ってほしい!市民権を得るための戦い
初戦では、ドイツ女子代表を相手に先制。惜しくも逆転負けとなりましたが、世界屈指の強豪チームに大善戦しました。ところが、日本国民からの反応は薄く、メディアで報じられることは少なかった。成田空港へ帰国した高倉麻子選手は「下の子に伝えて行けたら良いと思う。」と話しました。「女子サッカーは『勝たなければならない』『結果を出さないと注目されない』」という、今に通じるなでしこジャパンの精神が、この大会で生まれました。
2004年 アテネ五輪 恵まれない環境を改善したい!待遇改善を目指す戦い
2000年のシドニー五輪出場を逃し、日本の女子サッカーは苦境に立たされました。資金難に陥ったLリーグ(現:プレナスなでしこリーグ)は予算圧縮のために東西リーグとなり、試合の多くはスタンドのないグラウンドで開催されました。なんとしてでも、五輪に出場して世間からの注目を集めたい。その思いが選手・関係者で結集しました。
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