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新スタジアム、廃校利用の練習場……WEリーグ入りへ伊賀FCくノ一三重の再挑戦

プレナスなでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)は1989年に創設されました。当時からプレナスなでしこリーグで継続して戦っているクラブは2つしかありません。一つは日テレ・東京ヴェルディベレーザ。言わずと知れた、日本の女子サッカー界の盟主です。もう一つは伊賀FCくノ一三重です。ただ、この2つのクラブは明暗を分けました。伊賀FCくノ一三重はWEリーグへ参入できなかったのです。WEリーグ参入クラブの発表から1ヶ月……しかし、伊賀FCくノ一三重のWEリーグ参入意欲は衰えていません。すでにリスタートを切っています。

粟野仁博さん(向かって右二番目) 提供:伊賀FCくノ一三重

今回は伊賀FCくノ一三重の副理事長を務める粟野仁博さんに、お話をうかがいました。特に女子サッカーに興味がない方にもおすすめできるインタビューかもしれません。クラブと地域、そして行政との関係、スタジアムはどのように計画が本格化していくのかを現場視点で説明してくださっています。では、まず、インタビューをお読みいただく前に「微妙な」と言われがちな三重県の地理をご紹介します。粟野仁博さんによると伊賀市は関西地方のエリアです。同じ三重県でも四日市市は東海地方のエリアなのだそうです。同じ県でも文化圏が異なります。伊賀市がある三重県西部の上野盆地一帯は険しい山に囲まれており、江戸時代までは伊賀国(いがのくに)だったという歴史的背景があります。WEリーグ参入を目指した伊賀FCくノ一三重のチーム名に「三重」の二文字が加わったのは2020年からです。

粟野–1976年に伊賀上野くノ一サッカークラブとして三重県上野市(現・伊賀市)で創設された40年以上の歴史があるクラブです。1988年から1999年までは、プリマハム株式会社がメインスポンサーとなりプリマハムFCくノ一として活動。2000年からプリマハム株式会社の撤退に伴いまして、良い言い方をすれば「地域ぐるみで応援している」市民クラブということになります。今後、このクラブを発展させていくためには、もちろんスポンサーのご協力を今まで以上に仰いでいかなければならないのですが、やはり、地域の誇りをしっかり持って運営をし続けていくことが必要だと思っております。

練習場は廃校利用の天然芝

—かなり苦しい運営をされた時期もあったと思います。最近は、かなり安定され、選手の環境は良くなってきた印象を持っていましたがいかがですか?

粟野–メインスポンサーの株式会社エクセディ(マニュアルクラッチ等を生産・販売している企業)さんに基本、全員雇用していただいております。市町からも支援をいただいます。練習場は廃校(旧丸山中学校)を利用した天然芝の専用のグラウンドをお借りしております。行政との連携はうまくできているクラブと思っております。

練習場 提供:伊賀FCくノ一三重

—Jリーグがない県は、県民の皆さんに女子のクラブを応援していただきやすい利点がありますが、逆に、お金を払ってサッカーを楽しんだり応援する習慣の浸透が他の地域より薄いかもしれないと考えられますがいかがですか?

粟野–三重県は愛知県と大阪府に挟まれた地域です。ビッククラブが近くにあることから、ちょっと足を運べばすぐにプロスポーツを見られる環境だと思っております。問題はですね、三重県のスポーツのあり方が、どちらかというと「自身がするスポーツ」というところに主眼を置かれて施設を設置されてきた……。つまり「見るスポーツは名古屋、大阪に任せとけよ」という感じで行政としても進められてきたのかなあ……ちょっと個人的な感想として持っております。ただ三重県は四日市中央工業などもあり、サッカー自体は盛んな地域でクラブ数も多い、サッカー人口も多い地域です。サッカーに対する熱がないわけではない地域と思っております。

課題のスタジアム計画(素案)には「女子サッカープロ化施設基準の検討」と明記

—ホームスタジアムの上野運動公園競技場、鈴鹿ポイントゲッターズの三重交通G スポーツの杜 伊勢も地域の大会に向けたサイズ、設備というイメージですね。集客はいかがですか?

粟野–正直集客に関しては苦戦をしております。理由はいくつかあります。最大の弱点かもしれませんが、市民クラブということでボランティアの延長的な運営をしてきたためにビジネスという観点が抜けていたということがあります。「こういったものがありますよ」「プライスレスを経験ができますよ」というような広報宣伝に力を入れてこなかった。ですから伊賀FCくノ一三重というクラブは知っていても試合をいつどこでやっているかを知っている方々が非常に少ないという現実です。そこをまず改善をする。伊賀という名前を語っている以上は、地域の方々は応援してくださっていますので、そういった方々をどんどんアクティブにしていくのが、今後の大きな課題であり、かつビジネスに乗せる一番大きな命題だと思っております。語弊ある言い方かもしれませんけれども、結果的に責任がない運営をしていたというのが事実ですね。

上野運動公園競技場 提供:伊賀FCくノ一三重

—WEリーグに参入できなかった要因としてスタジアムの話がかなり強調されて報じられていると思うのですが、粟野さんから見た理解としてはいかがですか?

粟野–もう1にも2にもスタジアムっていうのは大事だと思っております。ホームスタジアムの上野運動公園競技場は収容人数3千547人。夜間照明があるわけでもなければ、もちろん大型ビジョンがあるわけでもないです。三重県内を見渡しても、参入の条件を満たしているスタジアムはどこにもない。仮に、の話ですけれども、例えばスタジアムがある(参入申請クラブがない)大阪とか名古屋とかに移転してWEリーグ参入申請をすれば、ひょっとすれば参入できたかもしれないと思っておりますけれども、やっぱり我々は伊賀市でやりたい、三重県でやりたいという強い想いがあります。

上野運動公園競技場 提供:伊賀FCくノ一三重

—市議会が、伊賀市サッカー協会などが提出した「Jリーグ基準のスタジアム整備を求める」請願を全会一致で通したところまでは、はっきりと議事録に出ているのですが、その後は?

粟野–請願というのはあくまで「お願い」「上申書」ですので、最終的に動くのは市当局です。あの請願を通したのが3月だったので2020年度の予算には、請願に関するものが全く反映されていないです。具体的に申し上げますと、伊賀市スポーツ推進審議会が「伊賀市スポーツ施設再編・整備計画(素案)」について、まもなくパブリックコメント(素案を市民に公表し意見を集める)を取ります。骨子素案には上野運動公園競技場の「女子サッカープロ化施設基準の検討」と文言が入っております。来年度は、今のところはサウンディング調査(民間事業者と対話して市場性 等を把握する調査)の予算が付く見込みです。その後に実施設計という形になります。行政と前向きに進めてはおりますが、今のところは、やっと調査に入って、これからどういう形でやっていこうかっていう道筋を作るところにやっとたどり着いたところです。

伊賀市スポーツ施設再編・整備計画(素案)

—鈴鹿ポイントゲッターズがスタジアムの発表をされていましたね。

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