WE Love 女子サッカーマガジン

俳優もサッカー選手も人に感動をお届けできる仕事 元芸能マネージャーのプロリーグ準備室長が語るAC長野の「次の一歩」

AC長野パルセイロ・レディースはWEリーグ参入を決めました。その記者会見を報じる記事の写真のセンターに写る女性の姿が目を引きます。日本の女性活躍社会を牽引していこうと考えているWEリーグですが、これまでの記者会見の多くは男性が主役でした。ところが、AC長野パルセイロ・レディースの記者会見は中央に女性。両脇に男性。だから、特別に目立っていたのです。しかし、よく見ると気がついたことがあります。隣に立つ代表取締役会長 堀江三定さんのお名前はほぼ記事に登場するのにもかかわらず、この女性の名前が掲載されていない記事が多い・・・中央に立っているのに誰?・・・。それが、この女性に対する筆者の第一印象でした。もちろん、そのときは、プロリーグ準備室長 加藤久美子さんが、私の好きな女優の元マネージャーであり、芸能界では超有名で伝説的な人物であったことなど、知る由もありませんでした。

お名前が記事に掲載されていないことが多いことについて、加藤久美子さんへ単刀直入に質問すると、笑って、少し早口に、こう答えられました。

加藤–よくご覧になっていますね。はい、会見で、参入について会長が強めに話していたからだと思います。私は、AC長野パルセイロ・レディースのWEリーグ参入を機会に畑違いのところからサッカー界に飛び込んできたばかりです。私が記者会見の壇上に登壇させていただいたのも、フォトセッションの際にセンターで写真に収まったのも「WEリーグの理念に共感し、サッカー(スポーツ)を通じた日本の女性活躍社会に貢献していくためには、その場に女性がいるべきだ」というクラブの方針があったからだと思います。

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芸能界という異業種からの挑戦

今回は、これまで、芸能界で手腕を発揮してきた加藤久美子さんが、AC長野パルセイロ・レディースのプロリーグ準備室長として、どのようにWEリーグ参入に挑むのか、その所信表明のインタビューです。

ここに一冊の雑誌があります。もしかすると、この表紙だけで、もう、全てをお見通しの方もいらっしゃるかもしれません。Quick Japan(クイック・ジャパン) Vol.117 201412月発売号、ここに加藤久美子さんが登場しています。いや、登場しているというよりも、加藤久美子さんを密着取材して生まれた永久保存版100ページ特集「吉高由里子 二人三脚の足跡」が巻頭に掲載されている雑誌なのです。芸能界のマネージャーは無数に存在しますが、100ページ特集を巻頭に組んでもらったことがあるマネージャーは加藤久美子さん以外に聞いたことがありません。この特集は「新人を担当するならばNHK朝ドラ主演をやれる女優にまで育てたい」という夢を抱き、吉高由里子さんと共に夢を実現させた加藤久美子さんが、大手芸能事務所・株式会社アミューズを退職する際に「卒業アルバム」のように企画された記事なのです。

選手の良さを引き出して、盛り上げ、ファンを創ることを考えていきたい

加藤–よく(マネージャーは)「付き人でしょ」なんて言われるんですけれど(苦笑)・・・マネージャーはお世話係じゃないんですね。人を売り出していく商売です。俳優がどのように活躍できるかの道筋を考えたり、新人を育てていく・・・「これだったら彼女は輝ける」「ここが彼女の強み」「この映画監督には合う」「私が、この仕事を選んだことで、その女優の転機になるかもしれない、良くも悪くも人生が変わるかもしれない」・・・そんな責任を持ってやる仕事です。感情がついてくる俳優を売り出すのだから単純に物を売れば良い仕事とは違います。自分の時間はほぼなくて、24時間、担当する女優のことだけを考えて生きてきたと思います。

サッカー選手と俳優はパフォーマンスするものが違うだけだと思っています。サッカー選手はプレーで、俳優は演技で人を楽しませる。人に感動をお届けできるという意味では、スポーツも芸能界も同じだと思いますので、AC長野パルセイロ・レディースでは、選手の良さを引き出して、盛り上げてファンを創ることを考えていきたいです。

 

笑顔が絶えないインタビューでした。

これから、WEリーグ開幕が近づくにつれて「芸能界から来た加藤久美子室長(吉高由里子さんの元マネージャー)」という記事が世の中に氾濫していくことでしょう。ただ、誤解していただきたくないのは加藤久美子さんが13年間を務めた株式会社アミューズは、権利関係を含め「厳しい芸能事務所」として知られる東証一部上場企業です。世間一般が抱く芸能界の浮ついたイメージとは一線を画しています。

そして、先ほど紹介したQuick Japan(クイック・ジャパン) Vol.117 201412月発売号のscene 1は「くみこの地元長野」でした。加藤久美子さんは、地元・長野へ熱い想いをお持ちです。

選手には、勝ち負けとか順位に関係なく「この人を応援したい」と思ってもらえる存在になってもらいたい

加藤–ファンの方は、まず「あの子が好きだから見に行きたい」という気持ちがあると思います。ですので、選手個人に焦点を当てて面白い企画を創り、長野地域でメディアの皆様に取り上げていただく機会を増やして、選手のことを知っていただきたいと思っています。仮に、選手全員が澤穂希選手のようなスーパースターが集まった強いチームでしたら「強い」という理由だけで、皆さんにスタジアムへ足を運んでいただけると思います。でも、私は、選手には、勝ち負けとか順位に関係なく「この人を応援したい」と思ってもらえる存在、選手個人が愛される存在になることを大切にしたいと思っています。

—そのためには、選手それぞれの個性を引き出していくことが必要ですか?

加藤–選手たちの良さ、特徴をよく掴んで、市民の皆さんにPRしていきたいです。泊志穂選手が選手を紹介するYouTubeをやっていますけれど「選手を見られてよかった」「選手を知ることが出来てよかった」とファンの方に言っていただいています。2020プレナスなでしこリーグが終わると次のリーグ戦はWEリーグ開幕の9月。(何もないと)応援してきた気持ちが冷めてしまうと思うんです。その気持ちを継続していただくという意味でも「いつでも見られる」コンテンツを増やすことは大事なことだと思います。年間を通してファンの気持ちを温められるプロモーションを考えていきたいと思います。選手の負担にならない程度にやりたいです。(選手だけに頼らず)私たちでできることは私たちでやって、選手に協力してもらいながらプロモーションをやっていきたいと思います。

長野 Uスタジアムは自慢です

— AC長野パルセイロ・レディースは観客動員で既にアドバンテージをお持ちで強みだと思いますがいかがですか?

加藤–そうですね。でも、まだ少ないと思います。もっと来てほしいし、もっとお店や企業様にポスターを貼ってほしいです。地域がもっとオレンジになればいいのに!って思います。これまでも盛り上がっているけれど・・・もうちょっと広げたいですね、オレンジを。AC長野パルセイロのファン・サポーターは男子のサッカー、女子のサッカーの垣根があまりない。だから観客数が多いのだと思います。AC長野パルセイロの特性をもっともっと引き出していきたいと思います。みんなと一緒に楽しみたいじゃないですか。中継を見て一人で喜んでいるとかじゃなくて「嬉しい気持ち」と「悲しい気持ち」をみんなで共感するのはスタジアムならでは。その熱はスタジアムに行かないと感じられないと思います。だから誰かと一緒に楽しめる、長野 Uスタジアムで生の試合を見ることって良いですよね。それをもっと感じてほしいです。

—WEリーグ参入のためのプレゼンテーションの方針は?

加藤–まずは長野 Uスタジアムです。そして、長野市を含む16市町村がホームタウンとして応援してくださっているということ。2014年に立ち上げた下部組織からアンダー世代の日本女子代表候補選手を輩出しはじめていること。それから、長野県出身選手を積極的に獲得しています。とにかくスタジアムは自慢です。「素晴らしいスタジアムだ」って岡島チェアもおっしゃってくださっています。キッズスペース(現在はコロナで閉鎖中)もあるので、お母さんがお子さんを連れて観戦にお越しいただけます。長野五輪を経験しているので皇室のご来場にも対応できるVIPラウンジがあって、あらゆることの準備が考えられているスタジアムです。

岡島チェアの長野Uスタジアム視察訪問(左が加藤久美子さん)

長野市内に自分の役割や魅力があれば帰ってくる

加藤–今後は集客イベントも考えていきたいです。対戦クラブの地域の特産品を販売したりして、対戦クラブのホームタウンやサポーターの方々にも喜んでいただけることもやっていきたいです。自分たちのクラブだけでいくら考えても出ないアイデアも、他のクラブが良いことをやれば真似をして良いと思います。みんなでアイデアを出し合ってWEリーグ全体を盛り上げていけるのが理想だと思います。

これまで、女子プロスポーツは長野県以外の話と感じられている方が多いと思います。長野市内の若い人の多くは高校を卒業すると長野市から出ていってしまいます。その後、長野市に帰ってくるか、帰ってこないか・・・私も帰ってくるのに十数年かかりました(笑)。長野市内に自分の役割や魅力があれば帰ってくると思います。その魅力の一つがAC長野パルセイロ・レディースになれば素晴らしいと思います。「実家に戻ってこーい!」という魅力になるようなクラブ作りを目指したいと思います。例えば同窓会のついでに見に来てほしいですね。また、商工会議所をはじめ、16市町村のホームタウンの皆様とご一緒させていただける取り組みも増やしていきたいと思います。多くの方に、ご支援、ご声援をいただけるように、仲間を増やし、サッカー(スポーツ)をフックに長野地域の活性化のために貢献したいと思っています。

長野駅

長野市役所に掲出された横断幕

男性が3人いると、中にダメな男がいても「だから男ってダメなんだよ」って言われないじゃないですか

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