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横浜F・マリノスからやってきた大和シルフィード統括本部長 大多和亮介さんが考えるWEリーグ参加とプロ化

プレナスなでしこリーグ2部の大和シルフィードがWEリーグ参加申請書類提出を発表しました。プレナスなでしこリーグ2部に昇格して2シーズン目の小規模なクラブの申請に驚かれた方も多いかもしれません。しかし、決して不思議なことではありませんし、無理に背伸びをしているわけでもありません。今回は大和シルフィード統括本部長の大多和亮介さんにお話をうかがい、それがよくわかりました。

本題に入る前に、1993年にJリーグがスタートしたときのことを思い起こしてみましょう。清水エスパルスは、加入申請当時、静岡県社会人サッカーリーグで戦っていましたが、Jリーグの理念に共感したビジョンを描き、鹿島アントラーズ(当時、日本リーグ2部)らと共にJリーグのオリジナル10に名を連ねたのです。今後、審査等を経て10月上旬を目処にWEリーグ参加クラブが決定される予定ですが、まず前提として、大和シルフィードがWEリーグ参加クラブに名を連ねても、何ら不思議はありません。なぜなら、ここに至るまでに、大和シルフィードは、着々と計画を進めてきたからです。

2020年2月1日、大多和亮介さんの統括本部長就任発表が大和シルフィードのオフィシャルサイトに掲載されました。各クラブが、WEリーグ参加申請書類を提出するまでプロ化にノーコメントを貫く中で、大和シルフィードは、2月時点でプロ化をを見据えて動き出す宣言をしていました。このように書かれていました。

女子の新プロリーグが創設されることを受けて、大和シルフィードとしての速やかな検討や対応、然るべき準備を進めていくことが大きな役割です。

横浜マリノス株式会社メディア&ブランディング部部長だった大多和さんは「横浜F・マリノス沸騰プロジェクト」を立ち上げ、従来のゴール裏サポーターのコア層とは違う、目には見えづらいけど熱量の高い「スーパーファン」をより顕在化させ、マリノスのブランディングに巻き込むプロジェクトでサッカー業界のみならず広くビジネスシーンから注目を集めました。Jリーグクラブのマーケティング活動を推進してきた大多和さんが、大和シルフィードに活躍の舞台を移して推進してきたプロ化とはどのようなものなのか?お話をお聞きしました。

インテリジェンスの高い女子サッカー界

—横浜F・マリノスから移籍されて、大和シルフィードの現場に驚くことはありませんか?

大多和–今のところネガティブな驚きよりもポジティブな驚きの方が多いですよ。今後は大和シルフィードを株式会社にしていこうと考えているのですが、今はNPOで小さな規模で運営しています。でも常勤の職員がいて、そのほとんどが女性です。なぜウチにいてくれるのだろう?って思うくらい超優秀です。WEリーグでは、クラブ運営法人の役職員の50%を女性(入会から3年以内に要達成)とし、役員にも最低1人は女性を登用するよう義務化していて、これが他のクラブにとっては高いハードルなのかもしれないですが、大和シルフィードは、既に50%を超えています。それから、大和シルフィードの藤巻監督は、プレナスなでしこリーグ20チームで唯一の女性監督です。

—日本の女子サッカー全体については、どのように感じますか?

大多和–インテリジェンスの高い人が多いです。女子サッカー界は人材が豊富ですね、驚きました。日本の女子サッカーは課題ばかりが(メディアで)叫ばれていますけれど、すごく良い文化の土壌を育んできたのだろうなと思います。「考える人が育つ」とかもそうです。女子でも海外組っているじゃないですか、決して恵まれた環境でプレーされているわけではないですが、そういう挑戦をする行動力とかも素晴らしです。LGBTQの話も当たり前に受け止められるような女子サッカーのオープンな雰囲気は、すごく良い土壌だなって思います。

ポテンシャルが大きい大和市と神奈川県県央地区

—ホームタウンの大和市はどうですか。

大多和–「女子サッカーのまち」とうたっているし、すごく(大和シルフィードと)密着してやっていると聞いてきました。横浜F・マリノスで横浜市と付き合ってきた経験からすると、大和市のコンパクトさはやりやすいです。GKコーチの小野寺志保さん(元なでしこジャパン・アテネ五輪代表)は大和市スポーツ課の職員です。庁内の各所に大和シルフィードのことを思ってくださる人がいらっしゃいます。

大和市は(マーケティング上の)ポテンシャルがありますよね。知れば知るほど驚いています。北は(田園都市線の乗り換え駅の) 中央林間から小田急線で南に行けば藤沢市に隣接します。それに、厚木市や海老名市、綾瀬市とも繋がっている。隣にJリーグクラブがある横浜市がありますが、ほとんどのマジョリティはサッカーを見にいく際に「どういうサッカーを見たい」よりも「週末をどう過ごしたい」かで行動を決めるので、そういう意味では、立地的には戦っていけると思います。

大切なのはプロ化の定義

—(WEリーグの入会申請が締め切られる前に)女子サッカーの関係者で「プロ化を目指して始動しました。」と明言されている方は大多和さんくらいしか見つからなかったので、あの就任のお知らせにはびっくりしました。そして、大和シルフィードがプロ化を目指すということにも驚きました。

大多和–言われてみたらそうかもしれませんね。大切なのはプロ化の定義なのだと思うのです。大和シルフィードは、WEリーグに入れようが入れまいがプロ化をしようと思っています。なぜなら、プロ化は手段であるから。「クラブとして次のステージに行く」という意味でのプロ化を明言しました。これは選手たちにも説明しました。Jリーグだとよく「トリプルミッション」と言うのですが、僕の考えるプロ化というのは「競技性」「マーケティング(事業性)」「社会性」の3つの関係をどう回せるか。これを回せてプロ化だと言います。別に「入場料をお支払いいただいたお客様を集めること」や「選手に年俸を支払ってそれだけで生活をできるように支えること」だけでプロ化というわけではないです。

—どのような方をターゲットに定めて集客していこうと考えていますか?

大多和–コミュニケーションターゲットの中心は女の子たちと、そのご家族に置いていこうと考えています。親御さんと一緒に来た女の子で溢れているスタンドになるようなプロ化にしたい。一方で、セールスターゲットとしては年配のご夫婦も置いていきたい、サッカー好きな人にも来ていただきたいです。

選手たちを大切にしていきたい

—プロ化について、選手の親御さんからは不安の声もあります。やはりお金の部分で。長く働ける企業への就職と比較してプロサッカー選手はどうなのか?という不安です。

大多和–それは、さっき言ったインテリジェンスが高い部分が逆に作用するところでもありますね。人生設計の不安とかも、先を見通せちゃうのだろうな・・・とか。ただ一方で、海外でもプレーしたFWの選手にお話を聞きましたら、彼女は一蹴していましたね「こんなチャンスはない、もらってサッカー一本でやっていく」って。やっぱりFWだなって思いました(笑)。

—プロ化のプロジェクトを進めるにあたり、注意されていることはありますか?

大多和–基本的に、私は時間のほとんどをプロ化に向けて使っています。ただ、今、プロ化に向けて将来へのビジョンを語っている一方で、足元を見ると手をつけなければならないことがたくさん出てきています。例えば練習場のこととか。今、戦っている選手たちが胸にエンブレムを付けている以上、まずは今の選手たちを大切にしていかなければならないと思っています。

(インタビュー:2020年7月1日 石井和裕)

Jリーグクラブのブランドアイデンティティのあり方をWEリーグに還流

大多和亮介さんは横浜F・マリノスの歴史を変える大きな取り組みをされてきた人です。シティー・フットボール・グループ(CFG)の経営参加、残留争い、コロナ禍の不安があっても横浜F・マリノスサポーターが高いロイヤリティを維持し、自ら良好なイメージの発信を続けているのは「横浜F・マリノス沸騰プロジェクト」の成功があったからです。今後も、横浜F・マリノスのブランドは長く維持されていくでしょう。

大和シルフィードはJクラブ傘下ではなく、特定の大きな企業名の付いたクラブ名称を名乗るわけでもなく、大和市民と共に歩んできたクラブです。こういうクラブがプロフェッショナルを要職に迎え、大きく変身しようとしています。インタビューの最後に書いたところが私の胸を打ちました。「選手たちが胸にエンブレムを付けている」この言い回しは、まさにプロクラブのフロントスタッフや指導者、選手が好む表現であり、Jリーグクラブのブランドアイデンティティのあり方をWEリーグに還流する象徴たる表現だとも思いました。

大和シルフィードが来シーズンからのWEリーグのオリジナルメンバーに選ばれるかはわかりません。しかし、確かな経験に裏打ちされた大多和亮介さんの目指すプロ化は必ず達成されるだろうと確信しました。

最後に「横浜F・マリノス沸騰プロジェクト」が顕在化した「スーパーファン」の一人であり著作も多い、ささゆかさんから大多和亮介さんへのメッセージを紹介します。

大和シルフィードのWEリーグ参加申請書類提出は私たちサッカーファンとして大変喜ばしいもの。その喜びの正体はWEリーグに近い将来、力強いチームが入ってくるであろう期待はもちろん、ここまで思考を重ねて体現できるクラブが出てきていることの”嬉しいおどろき”が本質のように感じます。Jリーグも含めた多くのチームが「リーグ参入」を”目標”とする中で”手段”だと明確に定義している、シルフィードの見据える未来や熱意が伝わってくるのを感じました。

自分の中の、マリノスサポーターの面からは「優秀な大多和さんが離れてしまった…」と物事を見てしまっていましたが、サッカーファンの面からは「これほどワクワクするチームに大多和さんがいるって信頼しかない…!」と見方を改めるきっかけに。

サッカーの発展は、競技だけでなく、地域住民の皆様や社会全体に価値観を広める役割も担っています。女子サッカーが熱を帯びることで企業の女性雇用や地域のスポーツ振興が盛り上がることを期待しています。特に大和シルフィードというクラブは女子中高生がサッカーを続けられる環境を作ることから始まっていますから、Instagramでの発信も含めて楽しみです。

大和市の市章のように大きく手を広げて飛躍しますように!
必ず応援に行きます!

ささゆか

大和シルフィードの皆さん、期待されていますよ!

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