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三遊亭美るくさんインタビュー「女子サッカー」との共通点は?「男の世界」に飛び込んだ「女流落語家」

「今後の目標は・・・まずは芸を磨く事から。そして真打になること。落語家になったからには「師匠」って呼ばれたいじゃないですか。」

落語家は真打に昇進すると「師匠」という敬称をつけて呼ばれるようになります。三遊亭美るくさんは、真打への昇進間近と期待される「女流落語家」。2006年に三遊亭歌る多師匠に入門以来、既に多くのファンを集めています。私は、以前に浅草で開催された落語協会サーフィン部の落語会で噺を聞く機会があり、ご縁をいただいて今回のインタビューとなりました。インタビューのテーマは「男社会に飛び込んだ女性の生き方」です。女性の落語家は増えているといっても、まだ40名ほどだそうです。ちなみに、美るくさんの師匠の三遊亭歌る多師匠は、女性の落語家がまだ一般的でなかったころからこの世界に入り、落語協会で女性初の真打になった草分け的存在です。

お話を聞いていくと、やはり、女子サッカー選手との共通項がありました。「最初は興味がなかったけれど、友達に連れられて寄席に行ったら面白かったのでどハマりして入門した」これは女子サッカーの場合は「兄がサッカーをやっていたので一緒にやってみたら楽しくて」に近いです。「『女流落語家』を特に追いかけるおじさんファンがいること」プレナスなでしこリーグ等のスタンドにも、同種のファンがいらっしゃいます。「『女がやっているのかよ』とか言われてきたこと」・・・これは、ちょっと嫌な話ですね。

提供:三遊亭美るくさん

丸山桂里奈さんはカッコイイ。

—テレビで女子サッカーをご覧になったことはありますか?

美るく–あります、あります。結構有名な方が多いじゃないですか。澤穂希さんとか丸山桂里奈さんとか。明るいイメージの人、ポジティブな考え方の人が多いイメージです。カッコイイです。私たち(女性の落語家)にも励みになります。

—最近はバラエティー番組での活躍が多い丸山桂里奈さんも「カッコイイ」に入るのですね。

美るく–ポンとインタビューされてポンと答えられるところが凄いです。スポーツするだけじゃない、自分に自信を持っているから出来るのだと思うのでカッコイイな、素敵だなと思います。私の中学校、小学校の時は(女子サッカーは)部活になかったです。なでしこジャパンを初めて見たときは「女の人がサッカーを」って意外な印象でした。男性のスポーツの印象が強かったです。身体張っているなーって思いますよね。

—美るくさんは、なぜ落語家になったのでしょう?最初はIT業界の会社に就職されたと記事を読みましたが。

美るく–IT業界の「数字だけでしか人を見ないところ」に疲れてついていけなかったというか、私に合わなかったです。そこで友達に誘われたのが落語で、初めて見に行ったのが新宿の末廣亭でした。「行ったら寝られるだろう」くらいの気持ちで行ってみたら結構面白くてどハマりして、何度か寄席に行きました。そうしたら高座に女の人が出てきて「女の人も(落語家に)なれるんだー」と思ってネットで調べて、会社もやめて・・・記憶がないくらいの勢いで門を叩いていました。(入門まで)最初に見に行って半年くらいでした。

—三遊亭歌る多師匠の凄いところはどこですか?

美るく–今は会社でも怒らない世の中じゃないですか。うちの師匠は自分にも相手にも厳しい人というのが第一印象でした。この人のところにいれば、いろんなことを学べるんじゃないかと思いました。とにかく怒ると怖いのは最初の想像以上でしたが、今、こうしてやっていられるのは師匠のおかげです。「きれいだな」とか「素敵だな」とかよりも「カッコイイ」が勝りますね。私は小さい頃から男の子と遊ぶのが好きだったので、自分が男の子と遊んでいると「お前は女だろ」とか言われることがあったんですね。なので「カッコよくなれれば仲間に入れるのかな?」という想いがずっと強くて、それで歌る多師匠に弟子入りをお願いしたのかもしれないですね。

かつては、女性の落語家が出てくると席を立たれるお客さんも結構いました。

—私が想像している以上に落語の世界は男性社会なのだと思うのですが、その中での女性の難しさはありますか?

美るく–今は無くなってきたでしょうね。10年前は女(の落語家)が少なかったから男のやり方で全てやっていました。食べ物一つをとっても「前座は虫ケラ同然」だから食べ残してはいけない。だから私はトイレに駆け込んで吐いて、また食べて、全部を残さず食べるとか苦労しました。今は、コンプライアンスっていうんですか?守られていると思います。多分、テレビの影響じゃないですか?「馬鹿野郎!」って叩く男の人もいませんし。

—芸の面ではどうですか?歌舞伎以上に登場人物が男性に偏っていますが。

美るく–10年前は、寄席なんていうのは「わぁー女かぁ」「女なんかがやって気持ち悪いなー」とか言って、私が高座に出てくると席を立たれるお客さんも結構いました。最近は女性の声色とかにも慣れてきたんじゃないですかね。

—女性の落語家が男性の声をやるのも、男性の落語家が女性の声をやるのと同じで、お客さんが慣れてきたということですか。

美るく–あとは、主人公を女性に変えて女性が喋る量を増やしたり・・・という工夫はします。まだ試行錯誤の段階です。ただ、そういうのをやりすぎると・・・男の人に媚びているじゃないけれど自分がやりたかった落語と違うなってことにもなりますしね。考えますね。本当はそのままでやりたいという気持ちもあるけれど、お客さんに(女性の落語家の)需要がないならば変えていくしかないのかな。

—サッカーの場合は男子のサッカーが「サッカー」と呼ばれて女性のサッカーが「女子サッカー」と呼ばれています。落語家の場合は「女流落語家」と呼ばれますね。そのあたりは落語をされている女性の立場の葛藤とか想いはあるのですか?

美るく–「これ(落語界)は男の世界だから」と、師匠から言われているのです。(女性でもある)歌る多師匠のスタンスなんです。「やらせてもらっている」という気持ちが強いので、私は呼び方に「女流」って付くのは仕方がないかなと思います。「女流」って呼ばれるのが絶対に嫌だという人もいます。

提供:三遊亭美るくさん

女性の落語を理解してほしい。

美るく–落語ガールズ(所属団体や流派の垣根を超えた女性の落語家ユニット)はパッケージにしたほうが女性の落語をわかってもらえるんじゃないかと思って組んでみたんです。そもそもは落語協会という団体があって、落語芸術協会という団体があって、落語立川流(立川流)、五代目円楽一門会(円楽党)・・・江戸落語界だけでも4団体あるんですよ。団体が違うと(落語家同士は)会う機会が少ないんです、寄席は同じ団体で回しているので。これを取っ払って女という括りで落語会をやってみたらお客さんに楽しんでいただけるんじゃないかと思って始まりました。女性の落語家といっても様々だから、アイドルっぽく売りたい人、男っぽいところを売りにしている人がいたり、いろいろ楽しんでもらえます。

多種多様なおじさんファンの存在は女子サッカーに似ているところも。

—落語ガールズは性別で繋がっているだけなのですね。「女流落語家」をメインに追いかけているお客さんがいるみたいですね。サッカーでも女子選手だけを追いかけているおじさんファン層がいます。「女流落語家」をメインに追いかけているおじさんファンは、どのような方なのですようか?

美るく–タイプはいろいろです。「娘を見守るようなタイプの方」もいらっしゃいます。中には『俺は(古今亭)志ん朝を見てきた』『君はこうした方が良い』と自分の落語の知識とかを喋ってこられる方」もいます。「毎回来てくださるけれど話しかけてこない方」もいらっしゃいます。私みたいにズバズバ言う人には追いかけてくれる人があまりいないかも(笑)。あっ、若い子に(おじさんファンは)移っていきますね。今まで(私の近くに)いたのに来なくなったなーって思っていたら、若い女性の落語家の方に行っていました、なんて(笑)。そういうのもありますよ(笑)。

来てほしいお客様像としては・・・私は同世代の女性に来てほしいです。会場に私と同じくらいの年齢層の人がいて、その人たちが憧れてくれるってちょっと嬉しいじゃないですか。同世代に共感を持っていただけるようなことを出来るようになれると嬉しいです。もっと自分が上手くなれば来てくれるんじゃないかなーって頑張っています!

(インタビュー:2020年7月15日 石井和裕)

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