女子サッカー漫画「レディース!」はどこに進んでいくのか?能田先生インタビュー
女子サポ2人が「スタジアムグルメ」を求めてアウェイ遠征する「ぺろり!スタグル旅」をはじめ、サッカーを独自の視点で描く漫画家の能田達規先生。ご出身は愛媛県松山市です。2020年2月に連載が始まった能田先生の最新作は、地元・松山市を舞台に女子サッカーリーグを描いた「レディース!」(https://kodansha-cc.co.jp/series/ladies)です。
舞台は愛媛県松山市です。
能田先生だけではなく、私も松山市に4年間住んだことがあります。私と女子サッカーの初遭遇は、この「十五万石の城下町」でした。女子サッカー史でいうと、ちょうど日本女子サッカー連盟が設立されようかという頃に、私の所属する小学生チームと看護婦(師)チームが対戦。当時は女子チームの存在自体が珍しいということもあって、この試合の模様がNHKで全国に放送されたのです(あの失点は、今でもオフサイドだと信じています)。松山市は、実は、早くから女子サッカーが行われていた地方都市の一つでした。
「レディース!」は、毎週金曜日に「コミクリ!」で連載されています。JR松山駅前や伊佐爾波神社での走り込みのシーンは私の思い出の情景そのままでした。そして、女子サッカークラブの毎日や選手の会話がリアルだと評判です。どのようにして、この漫画は生まれたのでしょう。そしてコロナ禍での連載の間に、WEリーグの構想発表、東京五輪の延期、FIFA女子W杯の開催地が日本ではなく豪州/ニュージーランドの共同開催に決定するといった出来事もありました。今後の物語に影響はあるのでしょうか。
愛媛F Cを熱烈に応援されているサポーターでもある能田先生にお聞きしました。
—「レディース!」はどのような漫画ですか?
女子サッカーを職業として選んだ18歳の主人公が地方の女子のトップリーグ(プレナスなでしこリーグがモデルと思われるNaリーグ)の環境とかを目の当たりにしながら、頑張っている先輩と共に社会人として一人前になる物語です。
—物語のスタートは大学に進学するか就職するかの選択からでしたね?
「大学の推薦入学」と「先生のつてのある愛媛でのプレー」のどちらに進むかという選択からです。愛媛(「愛媛ECレディース」というクラブ名)はプロじゃないですし、僕の考えだと、大学に行ったほうがいいんじゃないかと思うんですけど・・・。就職といってもじゃこ天工場で働くことになる。だから、一応、主人公の父親は反対しているってことにしています(笑)。
—この辺りから描き方がリアルですね。愛媛FCレディースの立ち上げ期にプレーされていた初代主将の中田麻衣子さんにお話をうかがうなど、事前に念入りな取材をされたとお聞きしました。
「女子サッカー漫画を書くなら、この人に聞きなさい」というアドバイスが愛媛FCサポーターからいろいろあって、セッティングしてもらってお話を聞けました。愛媛FCレディースの立ち上げ時に、中田麻衣子さんを中心にしてチームを作っていたということなので、お話を聞けて良かったです。主将の阿久根真奈選手や上野真実選手にも、私が愛媛に帰省したときにお話を聞きました。阿久根選手が特に「中田麻衣子さんがいたから私は愛媛FCに入った」くらいの勢いだったので、一人のリーダーシップのある選手がいると選手が集まってくるんだなーと思いました。7年前に皇后杯全日本女子サッカー選手権でINAC神戸レオネッサと対戦したときに僕は試合を見に行ったのですが0-10で負けました。そのとき阿久根選手もプレーしていたのですが、今は、阿久根選手が主将として中心人物になってチームをまとめています。先日の(プレナスなでしこリーグ1部リーグ)INAC神戸レオネッサ戦は0-1でいい勝負をしていたんで、ずいぶん成長したなーって感心しました。
—中田麻衣子さんが宮城県出身というのが主人公のキャラクター「宮城県出身のサッカー少女、小野寺杏」に影響していますか?
そうです。遠くから愛媛にまでやってきて頑張っている選手もいるのだから、地元(クラブのホームタウン)の人は応援してあげなさいよってメッセージも込めた漫画です。
—漫画の読者ターゲットイメージはありますか?
基本、マーケティングしない漫画家です!(笑)読者層とか考えていなくて自分の興味があるものを、ずっと描いているんですけど、僕が興味を持っていることは割と関心が(これから)高まることだと思うんですよ。(過去には)スタジアムグルメしかり・・・。あとは僕の高校生の娘に嫌われない漫画にしようと努力しています(笑)。どこに出しても問題がない「ディズニー路線」で行こうと思います(笑)。
サッカーにある多幸感を漫画に。
—題材として、女子サッカーの面白いところはどこですか?
勝ち負け以外にも、いろいろな側面があって面白いと思って漫画に書いています。昇格もあるし降格もある。チームは昇格できなかったけれど、選手だけ移籍することもある。プレナスなでしこリーグの選手でも「環境が良いところ」を優先して1部リーグから2部リーグに移籍する選手がいたり、サッカーのレベルだけで所属クラブを選んでいなかったります。風光明媚なところに住みたいとか人生設計を考えて所属クラブを選ぶ面もあります。モチベーションがJリーグと違ったりします。サッカーそのもの以外のところでも、ドラマがあります。
—連載中にWEリーグの構想発表、東京五輪の延期、FIFA女子W杯の開催地が日本ではなく豪州/ニュージーランドの共同開催に・・・これらはストーリーに影響を及ぼすものですか?
漫画の中では2020年の話とは描かずにぼやかしているのですが、プロ化の話はどうしようかと思っています。(主人公が所属する)。愛媛ECレディースも1部リーグに昇格して明確な目標がない状態なので・・・考えられるのは「プロ化まで進んで地元を盛り上げる」というのがよくあるパターンですよね。他にあるとしたら「主人公がプロを目指すことにして愛媛ECレディースで結果を残して、プロ化する別のクラブへ移籍する」というのもあります。主人公が五輪を目指すのかもしれないですけれど、どうなるかは話の展開次第です。東京五輪が無事に開催されて漫画の中で派手にできれば良かったんですけどね。
—愛媛ECレディースのようにチーム名が架空のチーム名になっていますが、これはどうしてですか?
漫画家としては架空のチーム名にして自由に描きたいっていうのはあります。読者さんは「実際の名前を使えばいいのに許可かがもらえないのかなー」と言われるのですが、許可をもらいに行っていないです、そもそも。敵チームを出すときに敵チームを悪く描くときに、実際のチーム名だとヤバいじゃないですか(笑)。「大阪のチームえげつないなー」とか台詞を描けないじゃないですか(笑)。
—能田先生の作品は、凄くリアルなところとぼやかして描くところと混ぜながら、という感じがします、この部分だけはリアルに描くという考えはありますか?
内容に関しては「できないことはやらない」。オーバーヘッドキックもあまり描いていないです。僕の興味自体が、プレーよりもサッカーの周辺にあるというのもあって、選手の私生活とか、お金の問題とか、サポーターとか(を描きます)。それと、ゴールを決めるまでの過程よりも、ゴールを決めた後の喜んでいるところを描きたいです。ゴールが決まったらお祭りだってくらいの幸せ感は出したいですね。人が喜んでいるのを見るのって幸せじゃないですか。「ぺろり!スタグル旅」を描いたのもそうなんですけど、(アウェイグルメって)幸せじゃないですか。だからサッカーも「こんなに楽しいよ」「素晴らしいよ」っていうのを描きたいです。それで、ゴールを決めて喜んでいるところはコマ数をかけて描きたいなってのはあります。
—「レディース!」の場合は、主人公が初ゴールを決めた後に、試合から帰るチームバスの中の会話などで3ページ使っていますもんね。
男子・女子とか応援するのに関係ない。
—プレナスなでしこリーグ1部に昇格1年目のシーズンの愛媛FCレディースへの応援も力が入りますね。
愛媛FCレディースの選手もSNSとかでたくさん発信してくれるのですが、選手のパーソナリティが分かってくるとすごく応援する気になります。負けた試合であっても、ちょっとだけでも発信してくれる選手は信頼できるなー、応援しがいがあるなーと思います。
みんなサッカーのレベルがどうのこうのって言うけれど、僕がサッカーのプレーを見て凄いなーって思うのは滅多になくってですね、実際問題、サッカーをレベルで見ていないじゃないですか、応援するときに。J2でもJ3でも目の前にチームがあれば応援するじゃないですか。自分の知り合いがチームにいれば、いくらでものめり込みますし、男子・女子とか応援するのに関係ないと思いますね。
(インタビュー:2020年7月29日 石井和裕)
—
「レディース!」と深いご縁の、あの方から能田先生へのメッセージをお預かりしました。ここに掲載します。
能田先生、連載おめでとうございます。また、私自身、そして所属したチームがモデルとなっていることに大変嬉しく思いますし、感謝の気持ちでいっぱいです。
『レディース!』の中では懐かしい場所や、場面が所々出てきます。また、女子サッカーのプロ化を目前に、現状を伝えつつ、未来を見据えた夢のあるワクワクする展開に毎週楽しく拝見させていただいております。
より多くの皆様に見ていただいて、単行本の夢も果たしていただきたいです。
現在、私は、地元仙台に戻り、宮城県の健康課題をフットボールを通して改善することを目的とした団体「solufaction」として活動しております。
女の子が楽しくサッカーを続けられる環境づくり、大人の皆さんの運動不足解消や、リフレッシュなどの場の提供をしています。最近では2・3歳児からの親子プログラムや、ヨガの資格を取得し様々な角度からサッカーへの入り口を広げ、裾野を広げて生涯スポーツにつなげたいと考えております。
中田麻衣子