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【六川亨の視点】2024年11月9日 J1リーグ第36節 FC町田ゼルビアvsFC東京

J1リーグ第36節 町田3(1-0)0FC東京
14:03キックオフ 国立競技場 入場者数45,288人
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両監督の差、それもモチベーションの差が如実に表れた試合だった。逆転優勝にはもう1敗も許されない町田の黒田剛監督は、中央にチャン・ミンギュを置き、左右に昌子源とドレシェヴィッチの長身CBを配置する3BKを採用。「ディエゴは収められるので注意が必要。チャン・ミンギュは簡単に前を向かせなかった」と賞賛したように、FC東京の得点源を押さえにかかった。そしてもう一人の得点源であり「縦横無尽に受けて走り回る」トップ下の荒木遼太郎には下田北斗を1アンカーに、インサイドハーフの白崎凌兵と相馬勇紀の3人がかりで封じにかかった。ウイングバックに望月ヘンリー海輝と林幸多郎を置く、3-1-4-2という布陣だ。

 

攻撃はオ・セフンの落としからエリキが切り込み隊長となり、MF陣が素早くフォローするパターン。そしてこれがものの見事にハマり、15分に先制点をモノにする。そんな町田に対しピーター・クラモフスキー監督は「こういう戦い方をしてくるだろうという戦い方だった」と想定内だったにもかかわらず、「エリアで対応できなかった」と選手の未熟さを指摘した。しかし問題は選手の対応力ではなく、監督の起用法にあった。CB土肥幹太はシーズン序盤こそ出場を重ねたものの、コンディション不良でしばらく実戦から遠ざかっていた。10月18日の神戸戦で交代出場から18分間ほどプレーしたものの、11月3日の湘南戦はベンチ外。そんな状態の18歳の選手にいきなりオ・セフンのマーカー役は荷が重すぎる。実際、空中戦はほとんど競り負けていた。ベンチには久々にエンリケ・トレヴィザンが登録されていただけに、経験値からいっても彼を起用すべきである。

 

加えて左SBは前節で長友佑都が累積4枚により出場停止となったため、本来はCBだが最近は左SBで起用されているルーキーの岡哲平を起用した。しかしエリキに加え望月ヘンリー海輝と俊足2人を相手にスピードで簡単に振り切られていた。ケガ人が多くてやりくりに苦労しているのはわかる。しかしクラモフスキー監督は後半18分、土肥に代えて白井康介を投入し、彼を左SBに、岡をCBに戻したように、こちらのスタメンの方がまだしっくりくる。

 

黒田監督は試合終盤にオ・セフンに代えてミッチェル・デューク、エキリに代えてベテランの中島裕希、下田に代えて仙頭啓矢、望月ヘンリー海輝に代えて杉岡大暉、相馬に代えて藤本一輝を起用した。いずれも今後の戦いを見据えた、意図が明確にわかる交代である。一方のクラモフスキー監督は中村帆高に代えて高宇洋を入れ、小泉慶を右SBにコンバートすると同時に荒木を下げてエヴェルトン・ガウディーノを投入した。荒木は確かにタイトなマークに苦しんでいたものの、GK谷晃生を脅かすシュートを放ったのは彼と遠藤渓太だけである。荒木とディエゴ・オリヴェイラの2トップの方が町田も脅威を感じたのではないだろうか。その後は東慶悟に代えて野澤零温を右FWに起用すると、小泉をボランチに戻し、右FWの安斎颯馬を右SBにコンバート(攻守ともに見せ場はなし)。そして最後はディエゴ・オリヴェイラに代えて山下敬大を前線に投入した。山下とガウディーノの2トップだが、2人はいずれも今シーズンはノーゴールのため得点の気配は皆無。彼らを生かそうという攻撃ではないため、それも仕方がないかもしれない。逆転優勝のため、そして6試合ぶりの勝利をファン・サポーターに届けるためにゲームプランが明確だった町田に対し、何をしたいのか理解に苦しむFC東京だった。

 

 

 

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。

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