大木武×風間八宏「もっとプレーしろ!」「背中を追うな」プロでも伸びる求道者のサッカー哲学【スペシャル対談】
サッカーのマニュアル化とシステム化が急速に進むなか、はたして創造の余地はどれだけ残されているのか。「サッカーは衰退に向かっている」と警鐘をならしたのはウルグアイ代表監督のマルセロ・ビエルサだ。有望な若手が欧州に流出して南米のファンが見られなくなっていること、容易に予測できるゲームが多くなり魅力がどんどん失われていることを嘆いている。
(参考記事:世界的名将の悲観論はJリーグにも当てはまるか?:西部謙司 フットボール・ラボ )Jリーグはどうだろうか? 今こそ孤高の求道者の声に耳を傾けたい。独特のサッカー観と強い信念を持ち、選手たちを輝かせる手腕を持つ大木武氏と風間八宏氏だ。
なぜ2人のもとでプレーするとプロの選手でもうまくなるのか? 日本代表とJリーグの魅力を高めていくために何が必要なのか。中学生時代からの盟友だからこそ語れる、日本サッカーの過去・現在・未来=進むべき道とは?
(司会・構成:西部謙司)【おもな内容】
・「プレーしろ、参加しろ」プロの選手でもうまくなる名匠の指導哲学
・「学校年代で区切る考え方は不要」世界のトップを目指すための強化論
・「偽物になるな」Jリーグをより魅力的にするには?
・「巧くて当たり前」日本代表をより魅力的にするには?
■「プレーしろ、参加しろ」プロの選手でもうまくなる“名匠”の指導哲学
━━お二人が監督をするチームの選手は上手くなる。これはなぜなのでしょうか。また、プロ選手が上手くなるというのはどういうことなのでしょうか。
風間 選手は今現在持っているものがすべてだと思っていることがあります。そうすると自分の経験から何かを探すのですが、それは後ろを向いてサッカーをしていることになります。そもそも足でやる競技なので、できないことは多い。そこはいくらでも変えられる。本当の技術を身につければ変わるということに気づけば、あとは選手が自分でやり始める。やり始めたら先へ進みます。「止める、蹴る、運ぶ」という言葉は同じでも、本当の正確性がどういうものかを説いてやれば、時間と余裕が生まれてきますから選手は自分でやり始める。つまり入口をしっかり見せること。それが一番大事ですね。1人ひとりに徹底して技術を伝えていきます。
━━同じことを繰り返し説くことになると思いますが、そのときに選手に響くような伝え方はあるんですか?
風間 3つですね。言語化、映像、デモンストレーション。言語化は議論の余地がないところまで言葉を砕く。映像はサッカーだけでなくいろいろなものを見せて選手に伝えています。例えば動物の映像を見せたこともあります。デモンストレーションはまだ体が動くので、選手ができていないことをしっかり見せる。この3つをどう使うかですね。
大木 私のところの選手が上手くなっているとすれば、それは選手が自分でやっていることが第一。選手が自覚してやりだすために監督はどうするかというと、映像はもちろんですし、言語化も悪くない。俺はヤヒロみたいなデモンストレーションはできないけど。
風間 できるだろ(笑)。
大木 ヤヒロの真似はできないとしても、私はよく「プレーしろ」と言いますね。例えば10回プレーできるのに、5回しかしないのが惜しくてしょうがないんです。10回プレーすれば5回上手くできるのに、5回しかやらないから3回しかできない。そこを何とか10回にさせて、成功も5回にする。それが一番のとっかかりかな。5回プレーして5回上手くやれるほど本当に上手い選手はなかなかいませんから、10回やれるなら10回プレーしてほしいんです。そこを強調しています。
風間 今、タケシの話を聞いていてタケシらしいなと思いました。監督がそういうふうに言ってくれれば選手はやりやすいですよ。失敗するとその選手をプレーさせない方向に持っていってしまう方が多いと思います。積極的にプレーするより、他の人に渡しておけとかね。そうすると選手は自分の経験から外へ踏み出せなくなる。プレーしなければミスも起こらないわけで。実際、そういう選手は何人もいると思います。上手い選手に「もっとプレーしろ」と言い、そこまで上手くない選手にも「プレーしろ、参加しろ」と言うだけでも、監督としてなかなか勇気がいるんです。自分が選手のときは、下手だと思った味方にはパスしなかったもんね(笑)。そういうものだと思いますよ。その中で、「プレーしろ」と言う監督は勇気がある。タケシのところで選手が伸びる理由が、今の話だけでもわかりますね。
大木 もし、下手な選手がいるなら、「俺がやるからボールをよこせ」と言える選手も出てきてほしい。理想はそういう選手が11人フィールドにいること。まあ、11人いれば下手な選手はいないわけですけど。それくらいの気概を持ってほしいですね。あの、ポジショナルプレーとか、どこに立てとか、私も言いますけど、そうじゃなくて自分がボールを受けるんだという気持ちが大事で、それを監督が折ってしまったらそこで終わってしまうんです。そういう部分は、もしかしたら他のチームよりあるかもしれないですね。
━━先ほどの大木さんの「10回プレーさせたい」という話がありました。5回で3回成功なら、10回で6回成功できる。ただし、5回なら2回のミスも倍プレーすると4回になるかもしれない。もちろん回数が増えていけば成功率は上がっていくと思いますが、最初にミスが増えてしまうのを嫌がる監督もいる気がします。しかし、お二人ともそこは微動だにしない。
風間 タケシはそうでしょうね。俺はオドオドしながらやっていますけど。
大木 ふざけんな(笑)。それは「うん」とは言わないよ。でもそうですね、ミスを見るのではなく成功の方を見ないと、成功が7回、8回になる可能性を摘むことになってしまう。それでも成功率が上がらないなら、控えで力を示している選手に取って代わられる。チーム内の競争も大事です。
━━ミスをしないようにして勝つのか、上手くなって勝つのか。後者の方が選手は伸びる。
風間 同じサッカーでもゴールが違うのでしょう。プロスポーツなのでお客さんを入れなければいけません。ミスの少なさをファンや選手が求めているなら、目指すものは変わってきます。ただ、自分が選手のときもミスしないことを褒められても面白くはないわけです。皆が求めているのは「驚き」ではないでしょうか。監督が後押しすれば選手はやり出します。「なんでこんなミスをするんだ」と思うことはありますけど、怒るよりトライさせないとね。
■「学校年代で区切る考え方は不要」世界のトップを目指すための強化論
━━世界のトップを目指すために何が必要なのかという質問をしたいのですが、正直世界のトップが目指すべきものになっているのかという疑問もあります。ユーロ2024のフランス、イングランドは強力なメンバー構成でした。ところが、あんなに良い選手がいるわりにはサッカーが面白くない。上手いのでミスしなければ勝ててしまうからです。相手の方がミスする可能性が高いので必要以上に「プレー」しない。フランスのデシャン監督は「つまらないなら見なくていい」なんて言っていたくらいで(笑)。
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