J論プレミアム

富樫敬真が止まらナイナイナーイ(海江田哲朗)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

鳥栖駅すぐそばの駅前不動産スタジアム。Jリーグ指折りの抜群の交通アクセスだ。

 

富樫敬真が止まらナイナイナーイ(海江田哲朗)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]百二十九段目

 

■すっかりJ1な雰囲気を漂わせる

アウェーの地から、思わぬものを連れて帰ってきてしまうことがある。今回は富樫敬真のチャントがそれ。東京ヴェルディが今季2勝目を挙げた、J1第11節サガン鳥栖戦の帰り道、無意識にふと口ずさんでいた。

「ケイマン、ケイマン……」。いつの間にやら魅惑され、いわく言い難い罪の味がする。けれども、「止まらナイナイナーイ」。気になってググった。元ネタはDISH//の『万々歳』という曲か。おっさんはこうしてサッカーを通じ、新しいメロディーに出合うことがある。

富樫は移籍の多い選手である。横浜F・マリノスでキャリアをスタートさせ、FC東京、FC町田ゼルビア、V・ファーレン長崎、ベガルタ仙台と渡り歩き、2023シーズンから鳥栖に加入している。すべてのクラブで個人チャントがあったわけではないだろうが、色合いの異なるサポーターの声援を受けてプレーしてきた。選手のパフォーマンスに与える影響は数値化できない。それゆえに尊く、両者はスタジアムで共振するのだろう。あの日は「止まらない」富樫のタッチライン際の粘りから、危うくPKを取られそうになった。

僕はJ2の頃の鳥栖しか知らなかった。十数年前、初めて訪れた際は、駅前に忽然と現れるスタジアムを見上げ、よくもまあこんなものを建てたなあと感心して眺めた。雰囲気は牧歌的そのもので、よくある地方クラブのひとつ。取り立てて、強い印象を刻んだことはない。鳥栖駅ホームの中央軒で食べた名物のかしわうどんは旨かった。ただ、福岡出身の自分には食べ慣れた味で、少しばかり郷愁を誘われたのが体験にプラスαされていると思われる。

2011シーズン、2位で初の昇格を成し遂げた鳥栖は、以降J1のステージで戦い続けてきた。Jリーグの長い歴史のなかで、J2降格を経験していないのはオリジナル10の鹿島アントラーズと横浜F・マリノス。それに鳥栖だけという事実にあらためて驚かされる。どこも勢いに乗ってJ1に到達するまではいいが、右肩上がりを続けるのは容易ではない。歯車が決定的に狂えば降格の憂き目を見る。バックアップする責任企業を持たず、財政基盤が不安定な地方クラブは特にそうだ。一度、転げ落ちてしまうと、そこから這い上がるのはさらなる困難が伴う。

しかも、鳥栖の歩みは波乱万丈である。人様のことを言えた義理ではないが、問題には事欠かないクラブだった。存続が危ぶまれる経営危機、組織のガバナンスの欠如、ハラスメントの横行。なのに、ずっとJ1にいる。この底力は並大抵ではない。翻弄され続け、ズタボロになっていた東京Vとの差はどこにあったのだろう。
13年目のJ1を戦う鳥栖は、以前とは様変わりしていた。スタジアムはすっかりJ1の雰囲気で、ホームの迫力を持ってアウェーチームを迎える。こちらの見る目が違うこともあろうが、えらい貫禄だと隔世の感を禁じ得ない。

J1での初対戦は、東京Vが2‐0で勝利を収めた。しかし、実際のところ勝敗は紙一重だった。

 

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