J論プレミアム

忘れがたき2022年のロアッソ熊本。そして、気分はワールドカップモードに(海江田哲朗)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 


J1参入プレーオフ決定戦を見届けた厚木健康センター。たしかにサウナはめっちゃ熱かった!水風呂、外気浴スペースもサイコー!

 

忘れがたき2022年のロアッソ熊本。そして、気分はワールドカップモードに(海江田哲朗)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]九十三段目

 

■サウナ後に熊本を応援する理由

カラオケ大会が開かれている食堂兼大広間の隅っこで、僕はタブレットに見入っていた。

11月13日、J1参入プレーオフ決定戦、京都サンガF.C.vsロアッソ熊本。ORIGINAL LOVEの『接吻』のイントロが流れた直後、コーナーキックからイヨハ理ヘンリーのヘディングシュートが決まり、熊本が同点に追いついた。「よっしゃ!」と思わず叫び、ぎょっとした周囲の目が一斉にこちらへ向く。あ、すいませんでしたと会釈し、タブレットに向き直った。こうなったのにはワケがある。

今年は10月下旬にレギュラーシーズンが終了し、珍しく週末の予定がぽっかり空いた。そこで、まだ一度も遊びにいったことのない弟夫婦の家を訪ねてみようと思い立ったのだ。場所は神奈川県伊勢原市。付近にはかねてより興味のあった厚木健康センター(サウナの激熱ロウリューが評判)がある。

午前は厚健のサウナを満喫し、ランチを食べて13時キックオフのプレーオフ決定戦をDAZNで観戦。その後、弟にクルマで迎えに来てもらう手はずを整えた。カラオケ大会が異様に盛り上がっていたのとwifiの微弱電波は誤算だったが、J1がナンボのもんじゃいと攻勢に出る熊本の戦いぶりに引き込まれ、公衆の面前にさらされているのをつい忘れそうになる。許されるなら、熊本がすごいゲームをやってるぞ、と言って回りたかった。

熊本は今季のJ2で台風の目となったチームだ。大木武監督に率いられて3年目のシーズン。J3からの昇格組ながら確固たるスタイルを打ち出し、前線からのプレッシング、ポゼッションの巧さ、狭い局面を打開できるパスワーク、鋭いカウンターを駆使して勝点を積み上げた。結果、4位でプレーオフ出場権を獲得。1回戦、2回戦を突破し、この決戦のピッチに立っている。

プレーオフが現在のレギュレーションになって以降、最後に立ちはだかるJ1の壁を乗り越えたチームはまだ出現していない。熊本がJ1の扉をこじ開ける歴史的な勝利をつかめるか。今季の戦いぶりからして、その可能性は充分にあると思えた。京都のゴールマウスに立つ上福元直人、熊本のゴールを守る佐藤優也は、ともにかつて東京ヴェルディに貢献してくれた思い出深い選手だが、今日ばかりは熊本に肩入れせざるを得ない。

前半39分の失点に絡んだのは、昨年末のトライアウトから這い上がってきた三島頌平だった。序盤戦は出番がなかったが、大木サッカーに適応してからは完全に主力に定着した。熊本で再起を図り、おそらく5年間のプロ生活で最も充実したシーズンを過ごしながら、命運を決する一戦でのエラーは悔やんでも悔やみきれないだろう。

捲土重来を期すということなら、夏にFC東京から完全移籍で加入した平川怜もそうだ。東京五輪世代のトップランナーのひとりで、高度なテクニックを武器に育成年代から将来を嘱望されながら、目立った成果を出せずにここまでキャリアを重ねてきた。

今季の熊本は大木監督が丹念に育てた将来性の高い大卒選手と、彼らのような再挑戦組を中心に構成されている。

 

※この続きは「サッカーパック」に登録すると読むことができます。

(残り 925文字/全文: 2673文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ