J論プレミアム

祝祭のビッグスワンで見かけた2つの花(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

祝祭のビッグスワンで見かけた2つの花(えのきどいちろう)えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』九十二段目

 

 

■玄関フロアでJリーグのロマンを感じる

10・23、J2最終節はもちろんデンカビッグスワンへ向かった。町田戦だ。ゼルビアはポポヴィッチ監督のラストゲーム。僕が09年シーズンからずっと追いかけているアルビレックス新潟は前節、J2優勝を果たしていた。苦手・東京Vに敗れたものの、2位横浜FCが金沢戦を落してくれたのだ。だから、新潟市へ向かう僕の足どりは軽かった。勝って気分よくシーズンを終えるのが最上だけど、町田戦は「凱旋試合」だ。勝敗の如何にかかわらず、優勝シャーレを掲げ、みんなでお祝いする日だ。ていうか、重圧から解放されたこんな日こそ快勝するじゃないかという予感があった。事実、2対1のスコア以上に気持ちいい勝利だった。三戸舜介2ゴール、得点後のパフォーマンスでは両手で「33」(負傷欠場中の高木善朗の背番号)を示した。もうそれだけで読者にチームの物語性がたどれるかと思う。天気は悪かったけれど、最高だった。

で、今月書きたいのは単純な「昇格・優勝」の話じゃないのだ。そりゃ僕も苦労し抜いた堀米悠斗キャプテンがシャーレを掲げ、松橋力蔵監督が選手・スタッフ、サポーターを称えるシーズン終了挨拶をしたときはうるうる来てしまった。だけど、いちばんグッと来たのはそういう「表方」じゃないのだ。僕の顔を見て顔を輝かせ(あるいは泣き顔で)グータッチをしに来る「裏方」の人たち。記者仲間や広報・運営スタッフやボランティアさんやクラブ後援会の人、スタジアムのバックヤードを駆けまわってるみんなが「やりましたね!」「よかったー!」と僕にグータッチしに来る。三戸舜介やってくれたー!、みたいなやつは的(まと)としてでっかいから最大の賞賛を浴びるじゃないですか。僕は「裏方」も戦ってたんだなぁと思う。あんまりそこは顧みられないけれど、「裏方」の達成でもあったと思う。みんなで成し遂げたんだよ。

 

 

 

手元に何枚かの写真があって、当日、デンカビッグスワン正面玄関に花がいっぱい届いてたんだね。玄関フロアが花の香りでいっぱい。スポンサー企業や地元マスコミ、ステークホルダーのなかにこの日、対戦する「町田ゼルビア 大友健寿」社長の花もあった。で、他のクラブからは来てるかなぁと見回したら「大分フットボールクラブ 榎徹」社長と「ヴァンフォーレ甲府 佐久間悟」社長の花が並んでいたのだ。ついスマホを取り出して写真におさめた。花はたくさん頂戴していたから、どの花が立派とかどの花が有難いとか、そういうものじゃないのは大前提。それは間違いないんだけど、大分トリニータとヴァンフォーレ甲府の花が並んでいるのは(並べて配置した係の人に意図はないだろうけど)インパクトがあった。

先週、甲府が天皇杯優勝を飾ったばかりなのだ。あれは感激だった。甲府公式ツイッターは「第102回天皇杯決勝 天皇杯優勝 クラブ初のタイトル 山梨のタイトル 小さな地方クラブだってやればできる。 県民のみなさま、おめでとうございます」と投稿し、1万以上の「いいね」を集めていた。僕が見かけた範囲では例えば水戸ホーリーホックの小島耕社長が「小さな地方クラブだってやればできる。良い言葉。」と引用ツイートしている。

小さな地方クラブだってやればできる。

これはJリーグのロマンなのだ。マスコミに取り上げられる「Jリーグ」は大都市圏のビッグクラブ中心だけど、実際には圧倒的に「責任企業を持たない、地方の小クラブ」の数が多い。そして日本サッカーが健全な発展をするためにはビッグクラブだけが夢を見られるなんておかしい。みんなに夢が必要だ。とりわけ地方クラブに夢が必要だ。

僕がビッグスワン玄関フロアでパシャッと写真を撮った2つの花。大分トリニータとヴァンフォーレ甲府はそのロマンを叶えた2クラブだった。なかなかプロヴィンチャは栄冠を掴めない。2008年ナビスコカップ優勝の大分、2022年天皇杯優勝の甲府はその稀有な例なのだ。

 

■違う価値観で勝負する

僕はアルビレックス新潟を取材してきて、スタッフやサポーターの首都圏やビッグクラブへの二律背反した思いに触れてきた。端的に言ってみんな「都会に敵いっこない」と思っている。そして「都会に絶対負けない」と思っている。僕は両親ともに東京出身だけど、父の転勤先の秋田市で生まれ、群馬県高崎市や北海道釧路市、和歌山市、福岡県久留米市とずっと地方都市で育った。「都会に敵いっこない」「都会に絶対負けない」の振幅がよくわかってしまう。地方はマンパワーもお金もない。以前取材したアルビレックスの(お辞めになった)社長さんは「浦和の勝利給とうちの勝利給は恥ずかしくなるほど違います。そこはどうにもならないんです。プロはお金が評価基準の世界だけど、別のモノサシが必要になります。僕は『新潟愛』だと思っているんです。新潟出身じゃなくても、新潟に愛情、こだわりを持ってくれる選手、スタッフを集めたい。これは絶対馬鹿にならないんですよ。僕ら中の人が本気で『新潟愛』で動いていたら、地域も本気で『新潟愛』で動きだすんですよ。世の中はお金だけど、お金じゃないことだってあるんですよ」と語っていた。

僕の言いたかったことは通じただろうか。J2最終節のビッグスワンでグータッチした「裏方」の人たちは「世の中はお金だけど、お金じゃないことだってある」を地で行くような人たちだ。それこそ「新潟愛」で走ってきた人たちだ。選手は移籍するが、「裏方」さんやサポーターは移籍しない。運命共同体だ。僕はそういう人たちのうれし泣きを見たくてスポーツの仕事をしている。そういう人たちが報いられる日が来るのを願っている。

 

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