「修羅場を知る男」田坂和昭が語るJ2終盤の戦い方。昇格と残留争いのカギを握る勢いの出し方とは?
これまで大分トリニータ、清水エスパルスなどで指揮をとり、昨季まで栃木SCの監督を務めた田坂和昭。昇格の難しさも残留争いの苦しみも経験している、文字通り「修羅場を知る男」に熾烈なJ2戦線の結末を占ってもらった。泣いても笑っても残り3試合、各クラブの命運はどうなるのか?
後編は昇格争いと残留争いの修羅場のくぐり方について語ってもらった。
(インタビュー・構成/ひぐらしひなつ)※インタビューは9月下旬に行いました。
【後編の主な内容】
・飲水タイムの廃止は上位チームの要望だった!?
・コロナ禍で有利なチーム、不利なチーム
・昇格できたのも残留できたのも○○があったおかげ
・ラスト5試合で勢いを出すために絶対必要なこと
・上位チームが気をつけるべきプレーオフの罠
・J1参入プレーオフ決定戦の相手は神戸、G大阪より磐田が一番厄介?
・「俺はサポーターのためにやってない」と言う選手にかけるべき言葉
■飲水タイムの廃止は上位チームの要望だった!?
――コロナ禍後は5人交代制とか飲水タイムとか、試合自体もいろいろとレギュレーションが変わりましたが、それによってサッカーそのものが変わったという印象はなかったですか。
ありますあります。5人交代できるので最初からインテンシティー高くプレーさせられる点は、監督としては助かりますよね。飲水タイムがあると休憩もできるので、それによっても強度を高く出来るし。5人交代できれば個の力がそれほど高くなくても、途中投入した選手のフレッシュさでしのげるところもありますからね。以前のように3人交代制で、暑いとき以外は飲水も出来ないというかたちだと、90分の間にチーム力の差が出てしまう。それこそ2013年に大分でJ1に上がったときは、ほとんど後半35分以降、ラスト10分とかでやられてたじゃないですか。
――あの頃は、交代選手でギアがどれくらい上がるかというところにチーム力の差が出ると、よく話していましたよね。
そうです。それが5人交代制になるともっと早い時間帯にシフトチェンジできるので、そこがいちばんサッカーが変わるところですね。
――その中で今季は飲水タイムが廃止されました。
あれは上位にいるチームがなくしてくれと言ったんです。昨季もそういう話がありました。監督たちがアンケートを取られたんですよ。僕は「休憩できるから飲水タイムはあったほうがいい」と言ったんですけど、リーグの上位陣やJ1のチームは、あれはもう要らないと。流れを止めたくないんですね。本当はあそこで指示はしちゃダメなんだけど、もうみんな普通にボードを持って修正の指示してますからね(笑)。
――J1にはあるVARがJ2やJ3にはないというのも。
大きいですね。あとで映像を見返して「えっ、これ入ってる」とか「これはPKだろう」といったジャッジの部分は勝点にも響くし。J2も昇降格があるからVARを入れてあげたらなと思うんだけど、予算的な問題があるんでしょうね。あとはスタジアムの形状によってVARの機材を置けなかったりね。昨季なんてコロナ禍の皺寄せで4チームが降格というレギュレーションだったから、残留争いもかなり大変だったのにね。判定ひとつが大きな差を生んだこともあったと思います。
――コロナ禍の影響下では、開催当日に試合が中止になったり、直前でメンバーが変更になったりということもありますよね。
こうなるとやっぱり選手層が厚いチームが強いですね。これはJ1でもあることですけど、誰か1人が抜けたらガクンと落ちるようなチームは苦しい。誰が出てもある程度は自分たちの戦いが出来るチーム、選手層が厚いチームでないと。その選手が離脱したら、代わりに出る選手のモチベーションは高いかもしれないけど、そこの力の差が歴然としていると難しいです。たとえば急なアクシデントが起きると戦力がダウンしちゃうようだと、なかなか安定した戦いは出来ないですよね。
■ラスト5試合で勢いを出すために絶対必要なこと
――シーズン終盤に昇格や残留が懸かっている状態では、指揮官のマネジメントが重要になります。いまの田坂さんだったらどうしますか。
僕らが大分でプレーオフを制した2012年は、シーズンラストで勢いを出せたでしょ。逆に栃木での1年目の2019年に、あれだけ苦労して最後の最後に残留できたのも、残り5試合で1敗しかしなかった。長崎にも勝って自力残留の可能性をつなげて、勢いをつけました。それは何だったのかというと、いまの岡山みたいに、傍から見たら選手、スタッフ、フロントの一体感があったんですね。チームのためにというそれぞれの気持ちが一体感を生むんです。そういうマインドを、チームとしてどれだけ出せるか。ちょっと精神的なところになっちゃうけど、残り5試合でいまさら戦術を変えるわけにもいかないですからね。だから最後は、それをやり切ることをどれだけ出来るかです。それが出来れば、いまは3位の岡山が自動昇格圏に入るかもしれないし、プレーオフ圏ぎりぎりのチームたちにも可能性があるかもしれない。残留争い中のチームも残り試合で一体感を出せれば、チャンスはありますね。2019年の栃木も、ぎりぎりまで21位にいたりしましたから。でも一体感って、口で言うのは簡単だけど、それを作り上げるのは並大抵のことでは出来ないんですよ。それこそ選手ひとりひとりにアプローチして、いかに固い結束力を持たせるかというところが、ここからは重要かと思います。
――田坂さんが2012年にプレーオフを制したときは、決勝戦の前に選手たちに「勝てば昇格だけど、負ければ俺たちには何も残らない。ただの敗者だ」という言葉をかけたんですよね。
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