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Jリーグクラブはマーケティング活動の規制緩和でどう変わるのか?(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

 

Jリーグクラブはマーケティング活動の規制緩和でどう変わるのか?(えのきどいちろう)えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]六十八段目

 

■異例の速さでの否定リリース

この1か月でいちばんインパクトがあったのは、スポニチのホームタウン制撤廃報道(「Jリーグ 来季ホームタウン制撤廃へ 創設時の理念『地域密着』から新様式に 今月中にも正式決定」10月17日早朝WEB配信&紙面展開)を打ち消したJリーグ公式リリースのスピード感だった。あれは速かったねぇ。守→攻の切り替え。僕はトランジションという言葉を思い浮かべた。

朝のスポニチ報道を受け、SNSでサポーターが反応してるなぁと思っていたのだ。正午前にいきなり公式の火消しリリースが出た。一部報道のホームタウン制撤廃は事実ではない。こういうとき、スポニチと名指しせず「一部報道」と言った方が怒ってる感じがする。他はちゃんとやってるのに「一部報道」のトバシで俺ら頭に来てますよ感。

基本、サポーターの反応も「スポニチ=トバシ」だったと思う。わけわかんないこと書いてんじゃねぇよ。Jリーグの基本理念って言ったら「地域密着」だろうが。もし、そんなことが事実ならJリーグは自らの歴史を否定することになる。これまで各クラブがどれだけ努力してきたと思ってるんだ。

日頃からSNSを積極的に利用している水戸ホーリーホック、小島耕氏ら何人かのJクラブ経営者も声を上げた。僕はそれは真っ当なことだったと思う。こういうことへのレスポンスの早さはクラブの個性を際立たせる。

が、正午前のJリーグ公式リリースには「火消し早っ」という感想を持った。水戸の小島さんが個人でツイートするのとは違う。オフィシャルな発信なのだ。「逆鱗にふれる」のゲキリンを連想した。そこを突っつかれたら黙っちゃいないぞという龍のうろこ。

 

■撤廃ではなく一部規制緩和

僕の興味はこの「火消し早っ」が出発点だった。この強い反応は何だろう。そもそもスポニチは「トバシ」だったのか?2021年現在の時点でJリーグ理念の根幹の関して「トバシ」を行なう意味は何だ?それで新聞は売れるのか?それでネットが炎上したとしてプラスになることがあるのか? 確かにこの件は燃えて、同報道に賛同を示したとされる浦和・槙野智章選手のツイートにも延焼した。

この槙野選手の延焼については浦議チャンネル(村上アシシ、UG、かなめ管理人の三氏が出演)で擁護の声が聞かれた。槙野選手は広島在籍時代、サンフレッチェ広島の都内イベントでホームタウン制の制約を肌感覚で知ってたんじゃないかという骨子であった。僕の確認した範囲ではこの浦議チャンネルがいちばんかみ砕いた議論をしてくれていて、「スポニチ撤廃報道自体は炎上狙いの釣り、但し(ホームタウン制撤廃でなく)規制緩和に関し報じた部分は事実」という解釈だった。

実はこの騒動の勃発した10月19日、スポニチ報道→正午前のJリーグ火消しリリースに続いて、メディアブリーフィングが行われた。席上、木村正明Jリーグ専務理事が従来の「理念を具現化している規約、思想、活動方針に一切の変更はない」と強調し、そこについては議論にはなっていないのだと明言する。

では見直しの議論になっているのはどこかというと、出井宏明Jリーグ パートナー・放映事業本部長が「もともとJリーグの規約規定のなかで、ホームタウンを超えた他のエリアでのマーケティング活動を規制するルールがあるものではない。どちらかといえば歴史のなかでお互い考えながらやってきたいわゆる紳士協定」と語っている。社会環境の変化を受けて、マーケティング活動等は規制緩和(出井氏の論では「そもそも規制するルールがあったわけではない」だが)してもいいのではないかというわけだ。

撤廃でなく緩和。

これは大きなトレンドになっていくと思う。これまで地方自治体の行政区分が枷になっていたけれど、間違いなく自由度が増す。ブリーフィングでは「サンフレッチェ広島のホームゲームのパブリックビューイングを東京の映画館で実施する」が例として挙げられていた。広島県出身の首都圏在住サポをターゲットとした企画だ。これまではスポーツカフェ、サッカーバーの常連客になっていた層をクラブ公式PVに回収し、マネタイズできるだろう。首都圏や関西圏では従来以上に地方クラブのイベントが盛んになるかもしれない。

 

■地域格差は固定化・拡大化していく?

が、規制緩和のメリットが大きいのは地方クラブより、断然、都市部のビッグクラブではないか。

 

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