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【六川亨の視点】2021年5月4日 J1リーグ第12節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス

J1リーグ第12節 川崎フロンターレ 3(1ー0)2 名古屋グランパス
15:03キックオフ 等々力陸上競技場 入場者数4,954人
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結果論であることは十分に承知している。それでも、もう少し早く動いていればと思わずにはいられなかった。

4月29日の第22節、首位の川崎Fをホームに迎えた2位の名古屋は、開始3分、10分、23分の失点で自慢の堅守が崩壊した。マッシモ・フィッカデンティ監督の不在(その後の検査で新型コロナに感染)も影響したのかもしれない。

5日後、第12節で今度は名古屋をホームに迎えた川崎Fの鬼木監督は、第22節と同じスタメンをピッチに送り出した。対する名古屋のブルーノ・コンカ・コーチは、テクニシャンの柿谷とドリブラーの相馬をベンチに下げ、米本と稲垣、長澤の3ボランチで川崎Fの攻撃を封じにかかった。

このプランはそれなりの効果があった。川崎Fはなかなか名古屋ゴールに迫れない。勇気を持ってパスをつなぐ名古屋からいい形でボールを奪えないのが苦戦の原因だった。それでも30分、カウンターから獲得した左CKで先制するあたり、昨シーズンの王者はしたたかだ。

問題の場面は後半5分、右SB成瀬がFW三笘に「ボールを持ったときにサイドバックが食いついてきていたので、食いつくかなと思った。足を出してきたので、ターンしてスピードを上げれば勝てると思った」と振り返ったように、簡単に突破を許すと、右SB山根に追加点を奪われてしまった。

成瀬は伸び盛りの20歳だが、三笘封じは荷が重かった。それなら後半20分に成瀬と交代で起用した右SB森下をスタメンで起用するべきではなかったか。結果として森下は反撃となるMF稲垣のゴールをアシストしたが、チームを鼓舞するメンタルの強さは、いまの名古屋に最も欠けているパーツでもある。加えて森下は関東大学リーグで三笘やMF旗手とは同期のため、対応力は成瀬よりも上だと推測するからだ。

この時点で、名古屋のベンチは動くと思った。0-2とリードを広げられたのだから、柿谷、ガブリエル・シャビエル、相馬、齋藤などFW登録の選手が4名もいる。劣勢の試合を予想したからこそ、攻撃的なカードをベンチに温存したのだろう。

ところがコンカ・コーチは動かなかった。そして14分、キャプテンのCB丸山がGKランゲラックの位置を確認しないで出したバックパスが無人のゴールに吸い込まれるというミスで3点目を献上してしまった。

0-3となって先に動いたのは鬼木監督だった。勝利を確信したのだろう。腰を痛めたレアンドロ・ダミアンと、前回の対戦で90分間プレーした家長をベンチに下げる。その2分後、やっとコンカ・コーチは動き、成瀬に代えて森下を、攻守にほとんど存在感のなかったFW前田に代えてFW齋藤を起用。さらに27分、FW山崎に代えFW柿谷、MF長澤に代えてFWガブリエル・シャビエルを起用すると、1分後には稲垣が反撃のゴールを決めた。

名古屋は38分にFWマテウスがFKを直接決めて1点差に迫ったものの反撃はここまで。交代枠の5人を使い切った鬼木監督に対し、コンカ・コーチは5枚目のカードとしてFW相馬を切ることなく90分間を終えた。

リードされることを想定するなら、187センチの長身FW山埼はパワープレー要員としてスタメンではなくベンチに置いておくべきだったのではないか。

すべては結果論でしかないが、名古屋はもったいないことをした川崎F戦だった。

 

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。

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