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風間八宏が語る真の技術論。「『止める蹴る』を追求すればJリーグはもっと速く、面白くなる」【新春特別対談】

セレッソ大阪の技術委員長に就任した風間氏。技術の定義、認識が浸透すればクラブにとって大きな力になるはずだ。

 

書籍『サッカー止める蹴る解剖図鑑』(エクスナレッジ)の刊行を記念して、昨年12月中旬に風間八宏氏と構成を担当した西部謙司氏との対談を行いました。新春特別企画として、全文無料で掲載します。川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任し、このほどセレッソ大阪の技術委員長に就任した風間氏の目にJリーグの止める蹴るはどう映っているのか? お手本となるJリーガーは誰なのか? どうすれば選手たちをもっとうまくできるのか? たっぷり語ってもらいました。<進行役:森哲也(エクスナレッジ)>

 

■中村憲剛と小林悠のプレーが「速い」理由

―おかげさまで『サッカー止める蹴る解剖図鑑』(エクスナレッジ刊)が好評でして発売直後に重版がかかりました。うまくなりたい人はもちろん、指導者や親御さんなど誰かをうまくさせたい人も買ってくれているようです。

風間 ありがたいですね。ただ、ちょっとひとつだけ思うことがあって……イラストの絵は俺じゃなくてよかったんじゃないかと(笑)。

―そこは担当編集として正直迷ったところでした。普通こういう実用本は若い男女のモデルを使うことが多いです。ただ、「止める蹴る」と言えば風間さんという感じにもなっているし、当たり前ですけど実演される力は一番なので、実際に指導を受ける選手の気持ちになってもらえるのではないかという狙いで…。

風間 撮影は俺がモデルで良かったと思ったんだけど、まんま描いてるなと(笑)。

―しかも普段着な感じの服装で。

風間 普段着でもないですよ。ちゃんと上下ナイキのジャージで撮影していましたから(笑)。

―親近感は間違いなくあります。名古屋グランパスとか川崎フロンターレのファンの方も買ってくれているようで、SNSでは「止める蹴るおじさん」と盛り上がってくれていました。

風間 (笑)。この前、長野に子供たちを教えに行ったのですが、指導者から「足のどこで止めるんですか?」「どこでどうボールを触ってるんですか?」という質問が出たので、本を見てもらったら、ちょうどこういうのが欲しかったと喜んでくれていました。

―良かったです。

風間 裸足で実演して、ひとつの指標を出してあげたのが大きかったと思います。「止める蹴る」という言葉は世の中に浸透してきたけど、実際にそれが何なのかまだわかっていない人が多い。この本を読んで、「止める・蹴る・運ぶ」は全部セットで別々では意味がないということをわかってくれると一番いいなと思っています。

―本の中で解説されていた、メッシは「止める・蹴る・運ぶ」が全部セットになっているという分析は目からうろこでとてもわかりやすかったです。

風間 そもそも蹴れない人は止めたボールをどこに置くかというのが定まりません。みんな蹴るというと体のすごく前でボールを蹴っていると思っているけど、体の前にボールを置いてしまったら蹴れないんですよね。それは自分が勢いをつけていって蹴れるってだけであって、立ち足を一番いいところに置いて、体を使って蹴れるようにはなっていない。「止める蹴る」の原点はそこにあって、いつもそこにボールを置いて蹴るという自分の基本型がないと結局は止める位置がつかめないんです。
止める位置がつかめると、今度はその位置にボールを止めるために、足のどこでボールのどこを触ればいいのか、止めてから次の動作までの時間をどこまで早められるか、ということになるんだけど、いろんなところで指導していると別々で考えている人が多い。本で書いたように全部セットだということを理解できれば、止める蹴るの本質が理解しやすいし、時間は技術で縮まるということがわかると思います。そこまでいけば、「止める蹴る」が実戦になってくるんだと思います。

―ボールをピタッと止めるだけが止めるじゃない。

風間 そう、自分が次のプレーをできることが「止まる」だから。

―リフティング10回もできない私のような素人レベルだと、なかなかボールは止まりません。

風間 難しいですよね。でも遊びでやるならまずは「止める」「蹴る」は別々でもいいと思います。

―止まったときの感覚は気持ちいいものですか?

風間 気持ちいいですよ。西部さんもサッカーをやってますよね?

西部 やってます。何年か前に風間さんの話を聞くまでは指に近いところで止めてたんですよ。そのほうがより繊細な感じがして。でも、指に近いところだとボールの圧力に負けてしまうときがある。風間さんから親指の下の出っ張りのところで止める、と聞いたときに、あ、これかって思いました。たぶん自分で探していたら見つからなかったと思います。ボールが回転しないでポンって止まると気持ちいいですよ。なんか本当にボールが自分のものになったなという感じがしました。

風間 俺、うまいなと思いますよね。

―話を聞いているだけで無性にボールを触りたくなりますね。

風間 本当は止まっていないのに、自分はこのぐらいで止まっていると勘違いしてしまって、凝り固まっていることが結構あるんですよね。それは本人がどこまで求めているかで全然違ってきます。いろんなところで指導するけど、とくに最終ラインの選手は必ずボールを動かしてしまう。Jリーグでは谷口彰悟(川崎フロンターレ)はすごく正確にボールを止めて敵をコントロールしていますよね。

―一度ボールを止めてから動かしているということじゃなくて、ファーストタッチですでに動いてしまっているということですか?

風間 動かしてしまっている。要は敵から逃げているんです。逃げると追われることに気づいていないのかもしれません。たとえば、右からきたボールを左に流したら、もうプレーできない方向(右側)が出てしまうわけです。左側を向いてしかプレーできないとなれば、相手は当然そこを狙いくる。本当はピタッとボールを止めると敵も止まるんですが、そういった当たり前のことが認識されていない。

―左に流さなくても正面向いてピタっと止めれば、選択肢は狭まらない。

西部 敵に方向を出しちゃうと相手にその方向を読まれちゃうからどんどんプレーが限定されてしまう。だから止まったほうが、相手が止まるし、もし相手が止まらなくても、全方位に出せるわけだから、不利にはならない。

風間 にもかかわらず、ボールを止めずにただ流すケースが最終ラインの選手にはすごく多いです。ちなみに外国の選手は基本的にすごく雑なんだけど、敵がいるとちゃんと止めるんです。

―そうなんですか。

風間 とくに後ろの選手なんかは敵がいないとルーズですね。

―それはトップ・オブ・トップでもですか?

風間 もちろん。ただCLとか、後ろからしっかり止めないと成立しないような激しい試合だと敵がいなくてもやります。だからたぶん彼らのなかでは「止める蹴る」は「認識」ではないんでしょうね。でも我々は「認識」にしている。
自分が蹴れる場所に正確にボールを置ければ、敵も止まるし、味方も動きやすくなる。たとえば、中村憲剛が小林悠にパスを出すというのは、完全にそのタイミングで動けば出てくるという関係ができていて、なおかつその出すまでの時間が短いから敵が間に合わないわけです。時間というのは正確性で全部決まってくる。そこが理解できるとサッカーはもっと面白くなる。これは別にFWでもCBでもGKでも、全員に必要な技術で、あって然るべきものだから、外国の選手は認識せずにできてしまうのかもしれないけど、日本は認識してやったほうがいいと思います。

―さっきの中村憲剛と小林悠の話は、止めて蹴るまでの時間が短いということですか?

風間 それだけではなくて、その短い時間の間に(相手のマークを)外すということも含まれます。止めてから蹴るまでの時間がいつも狂っていたらああはならないわけです。たとえば、西部さんが止めてから0.5秒で蹴れるんだったら、俺が外すのも0.5秒で外したほうがいい。西部さんが0.5秒で蹴れるのに、俺が外すのに2秒かかったらそれは2秒になってしまう。そうすると相手のDFにとっては簡単ですよね。結局、時間というのは遅いほうに合ってしまうので、そういう意味では正確であればあるほどプレーも速くなるということです。

―正確さが速さだというのはそういうことなんですね。

風間 止めるためにやってるわけではなくて、一番速くプレーするためにやってるわけだからね。止める蹴るの練習をやっていると、初めてそれを見るコーチは「2タッチが多すぎじゃないですか? 1タッチ全然入らないんですか?」と言ってくることがよくあるんですが、それは止めてから蹴るまでをやってるだけであって、1タッチでもタイミングは変わらない。
正確に止められる人は、自分の足下にボールが来るまでにすごく余裕があるので周りを見ておける時間ができるし、1タッチでの選択肢も増える。だけど、しっかり止めて蹴れない人が1タッチ1タッチと言っても周りを見る余裕がないわけだから、ミスが起きる可能性が高いですよね。

西部 1タッチにするか2タッチにするかはタイミングで変えられますからね。昔、スティーブ・マクラーレンというイングランドの監督がポール・スコールズを「最高の2タッチプレーヤーだ」と言っていました。1タッチというのは決め打ちだから、2タッチの素晴らしい選手というのは最高の誉め言葉だったわけです。かのヨハン・クライフは3タッチ以上する選手はダメな選手だと言ってましたが(笑)。

風間 1タッチで止められないから触ることになるわけですからね。プロ選手の練習とかを見ていてもシュートを2タッチで打ってる選手って意外に少ないです。もう一回前に出して蹴ることが多い。それはすごく大きな時間のロスだと思います。本当は2タッチまでで完結できるんです。極論すれば、1タッチか2タッチかあとは「運ぶ」しかない。運ぶもある意味1タッチの連続ですよね。そういう意味ではクライフの指摘は的を射ていると思う。

西部 クライフは1タッチがいい選手、2タッチはまぁまぁという評価。マクラーレンは2タッチが最高のプレーヤーという評価。違いはありますが、2タッチを軸に考えたほうがわかりやすいかなというのはありますね。

風間 スコールズは1タッチも当然うまいですけど、2タッチは抜群にうまい。練習を見ていてもすごいスルーパスを出す。

西部 1タッチでやろうとしていても受け手がマークされていたときにやめられるかどうか。決め打ちになってしまったら、相手のボールになってしまう。

風間 本来、2タッチまでで打てるシュートを3タッチする人はそこにひとつ余計なタッチが入っている。つまり、止める段階でミスをしているということに気づいていません。ここでしっかり止めれば打てた、2タッチ目で打てば入ったのにもう一回触ってしまった、ということがすごく多い。そうした時間のロスを縮めることを考えたら、技術を高めるしかない。時間=技術なので。2タッチで完結できるよう正確な技術を身につけられれば、ストライカーはもっと点をとれるようになるんじゃないかと思います。

――本人としては何回か触って丁寧に止めてから蹴ってるつもり…ということもありそうですね。

風間 要するに認識をしてないから3タッチが習慣になってしまっている。シュートの練習をしているのかキックの練習をしているのかということですよね。シュートだったら「タイミング」「コース」「高さ」が大事ですよね。GKやDFが間に合わないタイミングで打つのがベストで、あとはコースと高さです。それなのに、すごく強いキックを練習している選手がやたらと多い。タイミングもなければ、高さもコースもない。あるのは強さだけというケースです。でも先の3つの要素ができていれば、強さはもしかしたらシュートで一番必要のないものかもしれません。もちろん、3つの要素があった上で強いシュートを打てるならそれに越したことはないですけど。

西部 2タッチ完結はひとつの考え方ですよね。2タッチで完璧にプレーできるなら、1タッチもできるし、たぶん3タッチでも成立すると思います。

風間 2タッチ目で「蹴れる」「運べる」ような場所にボールを置くということなので、そのどちらにも属さない3タッチはミスということです。蹴れないということは2タッチ目でちゃんと蹴れる場所においていないということだからまずこれがミス。そしてボールを前に出すということは、そこまでに何歩もかかるわけだから運ぶでもない。運ぶというのは、体と一緒に次のステップでプレーができることですから。つまり2つの大きなミスがあって、その正確性、その時間では、簡単にシュートは打てない、決定機も作れないという話ですね。やはりミスが2つ続いたらプレーは成功しません。
蹴る・運ぶ以外をミスという認識にすれば時間はすごく縮まるはずです。

―観客目線でサッカーを見た場合、止めて蹴るをどういう基準で見ると違いがわかりますか?

風間 ボールが静止しているかどうか。簡単に言うとボールの柄が見えるか。ピタッと止めれている人は柄が見える。運ぶは、次のプレーがそのままできるか。体からボールが離れちゃうような状態は運ぶではありません。ボールをピタッと止められる選手は敵を止められる選手でもあるので、意外に余裕があるんだなと見ていて気付けると思います。逆に同じ距離があっても慌ただしくプレーしてしまうのはボールが止まっていないといった技術のミスがあるということです。
観客目線でいえば、ボールがピタッと止まるかなというのはボールをずっと追いかけて見ていればわかりますよね。いま止まった、いま止まっていない、すごくシンプルです。まずはそこだけに集中して見てみるのもいいかもしれません。

 

『サッカー止める蹴る解剖図鑑』の撮影風景。足のどこでボールのどこを触れば、ボールは静止するのか。ミリ単位にこだわって作業が行われた。

 

■「形」ではなく「技術」で人を外せるから川崎フロンターレは強い

西部 今季のJリーグを見ていて面白いなと思ったのは、自陣からビルドアップするときにいろいろ形を変化させています。ボランチが下りてCBとSBの間に入ったり、偽SBが中に入ったり、有利な状況を作ろうとするわけですけど、優勝した川崎フロンターレはほぼやっていない。元の形のままでボールを回してるわけです。形状変化をする必要がないとも言える。ひとつはSBから中のボランチとかに入れるボールがだいたい食われない。普通はそこにボールを入れるとけっこう食われるんですよ。受け手は後ろから来られてしまうから。

―まさに本の58ページでその外し方を書いてあった最もボールを失いやすいシチュエーションですね。

西部 川崎の選手はそこでもボールを失わないので、形を変える必要がない。

風間 それに形を変えても今はだいたい相手がついてきますよね。11対11なのに形を変えてどこかで1人を余らせようとするのがパズルですが、それはもうほとんど通用しません。結局、川崎の選手は同じポジションにいても隠れずに顔を出しています。ほかのチームは形を変えてやっていても、隠れている選手がけっこういます。だから、相手に詰められる。ましてや川崎の選手はみんな止められるし、止められるからパスを出すタイミングも早い。しかも足下にパスを出すからパススピードも全然違う。それで相手は間に合わなくて、川崎には余裕ができているということだと思います。

西部 ちょっと前までは局面(位置)で数的有利を作るというのが大事なことだったんですよ。今は位置よりむしろ時間ですね。ずっと数的有利である必要はなくて、何秒か数的有利であればそれでいいんです。数的有利をあんまり意識するとある一か所が数的有利の場合、別の場所が数的不利になっているから。あんまりそこにこだわり過ぎてしまうと木を見て森を見ずになってしまう。よくあるのがビルドアップで中盤の選手を下ろしたら下り過ぎちゃって前に人が足りないというケース。せっかくボールが前に出ているのに数的不利になっているみたいなことがよく起きています。

風間 本当は、自分を入れればいつも数的有利なんですよね。味方にボールを当てて、自分がボールを持ったらフリーだぞという状態でその味方のパスコースに正確に顔を出していけば、必ず2対1になる。みんながそうやっていくと、いつもボールの周りは数的有利になる。2対1が常にできている状態です。いくら相手が10人で守っていても、ひとつの場所を2対1で崩してしまえば全部いけてしまう、というのが川崎の攻撃には多いんです。全体で余る人を作るというごまかし方をしてしまうと、最終的には詰まってしまうし、余ってこなかったらどうする? マンマークでこられたらどうする? となる。川崎はマンマークでこられても平気ですよね。

―風間さんがいつも言っている、出して動くということをやり続けることですね。

風間 ただそれも正確に「止める蹴る」がないとできないし、原点はやっぱり技術です。技術があれば何でもできるけど、技術がなければ絵に描いた餅になる。

 

風間八宏氏の新刊『サッカー止める蹴る解剖図鑑』では徹底して“技術の可視化”に挑戦。裸足で「止める蹴る」のポイントを詳細に解説している。

 

■風間氏が薦める「止める蹴る」のお手本となるJリーガーとは?

―Jリーグで止める蹴るのお手本にすると良い選手は誰になりますか?

風間 やっぱり川崎の選手は多いと思う。リョータ(大島僚太)も谷口も、そのあたりの技術はすごく正確で、相手を操ることもできています。この二人の技術力はチーム力を左右しているとも言えると思います。リョータがボールを止めると、相手も全部止まりますからね。

―相手を止めるというのは、ピタッと止められたら飛び込めないということですよね。とはいえ、体ごとぶつけていけば飛び込むこと自体はできそうな気もするんですが…。

風間 止めるというのは、ボールが止まったというだけじゃなくて、蹴るも運ぶも何でもできますよというポーズをとられているわけだから、決して守備には行けないんです。止める動作に無駄がなく、そこから蹴る・運ぶにうつるのも速いので、相手にとっては飛び込む時間、つまり隙がないんです。バスケットボールやハンドボールで相手にボールを持たれたら当たりに行けますか? 飛び込んだら外されるので、絶対止まりますよね。それと同じです。

―確かにほぼ取れないですよね。

西部 清武(弘嗣)もうまいですね。見ていて、楽しそうにやってるなーと感じます。

風間 うまいですね。彼もすごく良くなってますよね。彼の技術を引き出せる選手がもっと増えてくると、テンポが上がりますよね。

―それは止めて蹴るが?

風間 タイミングがってことだね。誰かが動いてもすぐに出せるということは、それだけ止めてから蹴るまでがしっかりできているということ。

―コロナ禍ということもあってか、公園で1人や2人でボールを蹴ってる人をよく見かけます。そういった場所でもできるおすすめの練習法とかありますか?

風間 2人でパス交換するなら、一回のタッチで蹴れるところに置く。さきほど言ったボールの柄が触った瞬間に見えるぐらい、ピタッと止まるかやってみるとか。ボールの止め方は本に書いているけど、ピタッと止まって絵が見えたらすごく気持ちいいと思います。
もうひとつは、いつも言っている「音」ですね。音をまったくさせずに、止めてみる。原理原則でいえば不可能なんだけど、できるだけ小さい音で止めてみる。少なくとも相手に聞こえないぐらい。

―音がならないというのはそれだけ大事なんですね。

風間 吸収しているということですからね。音をさせないためには、触るところもある程度限定されるんです。面で触るとパンと音が鳴っちゃうけど、点だとほとんど鳴らない。それで今度は蹴るときに、逆にできるだけ大きい音を鳴らしてください。だいたいカカトで蹴ると大きな音が出ます。ボールを蹴るときは、できるだけ回転をさせないことが大事なので、カカトで蹴ると回転しづらくなります。最後に地面との摩擦で回るのは仕方がないので、最初は柄が見えるようにボールが走って、途中で摩擦で回転していくイメージです。
こうやって音と球質にこだわると面白いですよ。柄が見えるかどうかということもそうですけど、飽きずにできると思います。

―さっそくボールを蹴ってみたくなりますね。

風間 いま言ったように柄が見えるぐらいピタッと止まるというのは、いきなり10回やって1回できる人はほぼいないと思う。

―ハードル高いですね。

風間 でも、慣れてくれば、10回やって一回ぐらいはできると思うし、それぐらいになったら大したもんだと思う。

―本の中でも解説していましたが、メッシだったら100回やって100回とも成功できますか?

風間 メッシだってミスはします。何回も止まらないことがありますよ。

―タグマ!の読者はJクラブのサポーターの方が多いです。「止める蹴る」を意識すれば、Jはもっと変わりますか?

風間 時間が早くなるのと、守備側からしたら敵とのコンタクトも簡単じゃなくなります。相手に触ろうとしても触れなくなるんです。技術はすべて時間なので、正確であればあるほど速くなります。たとえばパスが5本つながったとする。1本ずつ1秒でやったとしたら5秒です。それを半分の時間でやれば2.5秒になりますよね。ゴール前で2.5秒あったらすごく余裕があるんです。余裕ができれば判断も的確にできるし、シュートも正確に隅に打てたりする。そういう速さを突き詰めているところは世界中にもそんなにないなからすごく面白いリーグになると思います。

―世界中でも、ですか。

風間 偶然のようにできているチームはいくつかあるけれど、たとえばユべントスだってまだまだ速くできると思います。バイエルンとかリバプールもけっこう速いですが、彼らの速さはそれだけではない。単純に走る速さも加わる。日本は技術で徹底的にスピードにこだわってやれば、日本代表だってもっと面白くなるんじゃないかと思います

―中村憲剛選手が引退しますが、彼は何がすごかったですか?

風間 やっぱり柔らかいんですよ、体が。

―猫背なので、体は堅そうだなという印象でした。

風間 簡単に言うと足が延びるということです。そうすると、ボールもとれるし、ちょっと乱れてても足が届くんですよね。だから速い。当時、憲剛にはそれ以上は言わなかったけど、普通の人はあそこの位置に止めても蹴れないんだけど、彼は蹴れるんだよね。ジダンもそうだけど柔らかさというのは速さでもある。復元力もあって、意外に無理がきく。最初に見たときに、憲剛の幅って結構あるなと思って、細かいこと言わなくていいなと思ったのをおぼえています。

―止める蹴るの技術があるなかで、さらに柔らかさもある。

風間 この前の(小林)悠へのアシスト(12月16日の浦和戦61分の3点目)もそうだよね。ギューンっていきなり(クロスを)入れたりする。速くないように見えて速い。あれは普通の選手だったらもう少しステップを踏まないと逆側には蹴れない。憲剛はかなり前にあるボールでもスポーンって横に入れたりする。柔軟性が速さになってるのは彼の特徴だと思いますね。

西部 本能的にやってる若い選手ってたくさんいると思うんですけど、そういう選手はどう指導していけばいいと思われてますか?

風間 最初の定義づけはしっかりしなければいけません。自分がいつも言っていることは原理原則です。それが正確にできればうまくなるし、時間を早めようと思ったらそうするしかない。敵の逆をとろうと思ったらそうするしかない。俺の理論だとよく言われるけど、これは当たり前の理論です。それを理解して実践できれば、どんな選手もうまくなっていくと思っています。

―本質ということですね。

風間 リョータなんかは最初に見ていて気づいたのは、蹴れないなということ。蹴れないと止める位置も探せない。だから、蹴れるようにならないといけないと話して、最初にやらせてみる。そのあと彼はずーっと毎日壁打ちして、蹴れるようになった。蹴れるようになると止める位置も変わった。それまではボールを前に置いてからじゃないと蹴れない感じだったのが、いまはスパンスパンと蹴れるようになった。すごいシュートも決められるようになりましたよね。蹴れるようになったことでボールが本当に止まるようにもなった。もちろん彼が自分で取り組んだ練習のたまものだけど、そうやって要求して意識をさせることで武器は増えていくということだと思います。

西部 大島みたいにうまくいくといいんですけど、一時的にヘタになることがあるじゃないですか。

風間 それはないかな。ただ、周りのテンポが上っていくから悩む選手はいますね。

西部 大久保嘉人はどんな感じだったんですか?

風間 嘉人は見本を見せたら、何でもすぐにやろうとしていました。言ったことはすべてすぐにできるぐらい全部持っていましたね。シュートでも自分でこの技術が欲しいと思ったたら自ら貪欲にシュート練習をして、誰よりも練習をしていましたね。

西部 人間的には素直そうですもんね。

風間 そう、すごく素直(笑)。

 

【新刊案内】
風間八宏著『サッカー止める蹴る解剖図鑑』(エクスナレッジ)

 

徹底的に“技術の可視化”にこだわったサッカー「止める・蹴る」の教科書
風間八宏がサッカーに必要な真の技術を徹底解剖

本書のポイント
◎「止める」「蹴る」「運ぶ」のポイントをイラストで図解
◎史上初! 裸足の絵だから伝わるボールを正確に扱うコツ
◎最高技術の結晶メッシの「止める・蹴る・運ぶ」を解剖

 

風間八宏(かざま・やひろ)
1961年10月16日、静岡県生まれ。清水商業高校時代に日本ユース代表として79年のワールドユースに出場。筑波大学在学時に日本代表に選出される。卒業後、ドイツのレバークーゼン、レムシャイトなどで5年間プレーし、89年にマツダ(現サンフレッチェ広島)に加入。日本人選手Jリーグ初ゴールを記録。97年に引退後は桐蔭横浜大学サッカー部、筑波大学蹴球部、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。子供から大人まで一緒に練習する「スぺトレ」の全国展開を行いながらサッカースクール「トラウムトレーニング」の代表を務めるなど、独特の技術論とメソッドでサッカー選手が楽しく伸びるような指導に心血を注ぐ。2021年よりセレッソ大阪の技術委員長に就任。

 

西部謙司(にしべ・けんじ)
1962年9月27日生まれ、東京都出身。ジェフ千葉のファンを自認し、タグマ!にて「犬の生活SUPER」を連載中。サッカーダイジェスト、フットボール批評、フットボリスタなどに寄稿。2019年より「西部謙司 フットボール・ラボ」スタート。新刊『サッカー止める蹴る解剖図鑑』(エクスナレッジ)では構成を担当。

 

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