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マラドーナとの別れの中で日本で起きた興味深い出来事(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

マラドーナとの別れの中で日本で起きた興味深い出来事(えのきどいちろう)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]四十六段目

 

■日本では1例のみ

11月25日、同世代のスーパースター、マラドーナが亡くなった。ブエノスアイレスの大統領府で営まれた告別式の模様を見て、これが一人のサッカー選手の葬儀だろうかと思った読者もいるのではないか。国民的英雄というのはこういうものなのだ。数十万人が「神に最も近い人間」、ディエゴ・マラドーナとの別れを惜しんだ。ドーピングや違法薬物の使用等をめぐって毀誉褒貶の激しかったマラドーナが、アルゼンチン国民にいかに深く愛されていたかを如実に物語っている。

もちろんマラドーナを失った悲しみは世界のサッカー界に広がった。ラ・リーガ第11節オサスナ戦でメッシが見せたゴールパフォーマンス(バルサユニの下に着たニューウェルスのユニホームを見せ、祈る)は罰金が課せられるそうだが、大きな感動をもたらした。FIFAは日本時間の28日、加盟する世界211協会に対し、週末に行われるすべての試合で黙とうを捧げるよう要請したという。

が、ここが興味深いところなのだが、28、29日の両日、知るかぎりJリーグ会場でマラドーナに黙とうが捧げられたのはJ2長崎-新潟(トランスコスモススタジアム長崎)の1例だけなのだ。ACL会場では(FIFAの要請通り)黙とうが執り行われ、FC東京の選手らが弔意を示している。

僕はここで何も「Jリーグの通達遅れ」とか「レジェンドに対し失礼」とか非難がましいことを言いたいのではない。そんなことはなーんも考えていない。興味深いことだなぁと思うのだ。例えば29日のJ3岩手-鹿児島(北上総合公園陸上競技場)だ。僕がいわてグルージャ盛岡のフロントスタッフだとする。FIFA要請はともかくとして、とにかく素で「世界的スーパースター、マラドーナの死」と「自分たちがこれから準備するJ3の試合」を関連づけて考えるだろうか、ということだ。もちろん関連は大ありなのだ。同じサッカーだ。フットボールファミリーだ。だけどねぇ…。

28日には関東社会人サッカー大会準決勝が行われ、延長戦でTIU(埼玉1部1位)を下し、南葛SC(東京1部1位)が来季の関東2部昇格を決めている。南葛SCはもちろん『キャプテン翼』の高橋陽一先生が後援会長であり、熱烈なマラドーナファンの岩本義弘さん(元ワールドサッカーキング編集長)がGMなのだが、じゃ、試合前に黙とうを捧げたかという問題だ。マラドーナを愛しているかどうか、その死を悼んでいるかどうかは直接関係がないのである。

ちなみにJ唯一の例となった長崎-新潟はなぜ黙とうを挙行したかというと、V・ファーレン長崎のスポンサー「MSCクルーズ」がかつてセリエA、ナポリの胸スポンサーだった関係だそうだ。だから同じカード、新潟-長崎戦が新潟市のビッグスワンで開催されていたら黙とうは行われなかったと思う。

 

■遠そうで意外と近かったマラドーナとの距離感

僕は面白い視点を得た。マラドーナとの距離感。「サッカーは世界とつながっている」「サッカーは世界の合言葉」、これは正しいのだ。正しいのだが、東アジアの島国で世界を目指すとき、つい「本場イングランドの…」「本場ブラジルでは…」という具合いに自らを辺境と自白してしまう悲しさがある。

僕はマラドーナとの距離感を考えてみた。マラドーナと日本。マラドーナと僕たち日本のサッカーファン。

関係がないわけではなかった。18歳のワールドユース東京大会を皮切りに日本でもプレーしている。個人的には1979年のワールドユース東京大会だ。日本で初めて開かれたFIFA主催の国際大会。僕と同世代の日本サッカーの俊英たちが松本育夫監督の猛特訓でしごきにしごかれ、世界に挑んだ大会。そのとき、アルゼンチン代表が優勝するのだが、最優秀選手はマラドーナだった。

 

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