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【核心レポート】「Jリーグはもうスカウティングのリストから外している」欧州移籍市場から日本人選手が消えつつある衝撃

今年9月までフィンク監督の右腕としてヴィッセル神戸のトップチームコーチを務めたモラス雅輝氏。オーストリア在住で指導者としての実績はもちろん、名だたる欧州のクラブや指導者とのパイプを豊富に持ち、マーケティングにも精通している。
そんな欧州と日本の現場を知る稀有な人物は、今後、日本人選手の欧州移籍がさらに難しくなると実感している。
事実、表題の「Jリーグはもうスカウティングのリストから外している」とはドイツのスポーツ・ダイレクターの言葉である。
いま欧州の現場で求められる選手像は大きく変化している。その変化は日本のサッカー界にどのような影響を与えるのか。海外移籍推進派も消極派も最前線のニーズを知っておいて損はない。
(インタビュアー・小澤一郎)

 

■欧州現場のニーズを理解していない日本人選手の売り込み

【モラス雅輝氏のTweet】
「欧州のクラブと繋いで頂けますか」と日本人選手のハイライト動画が度々送られてくるが、特に高卒/アマチュアの攻撃の選手の場合、何故かドリブルのシーンが圧倒的に多い。しかし数的不利を突破するシーンが多いと欧州側の受け手は「戦術的に良い判断ができない、周りが見えていない選手」になる。

そして何故かゲーゲンプレス、プレス、相手陣地でのボール奪取等のシーンがほぼ無いハイライト動画もある。欧州に行きたいのであれば(日本で発揮していた)自らの特徴をアピールするだけではなく欧州の現場における真のニーズをもっと理解した方がベター。“ボール扱いが上手い選手”は欧州にも多くいる

――先日のモラスさんのツイートから入らせてもらいます。今、SNSがあるので欧州に行きたい日本人選手からDMやハイライト動画を直接受け取ることも増えていると思いますが、やはりドリブル突破のシーンを筆頭にオン・ザ・ボールのシーンが多いのでしょうか?

プロの選手に関してはプロフェッショナルの代理人や少なくとも仲介人の方が送ってきますので動画の内容は違ってきます。先日のツイートで「特に高卒/アマチュアの攻撃の選手の場合」と書いたように、そうした選手からの動画はドリブラーばかりです……(苦笑)。数的不利の状況でも上手く突破しました、技術があります、ドリブルが得意です、とアピールしてくるのですが、欧州の現場からすれば数的不利の状況に突っ込んでいく必要性はどこにあるのか? とマイナスの評価につながる可能性があります。私のところにはドイツ、スイス、オーストリアのクラブを紹介して欲しいという選手から連絡が来ますが、「自分はドリブルが上手い」とアピールするよりも、現地に行った時にチームにどこまで貢献できるのかというのを考えてほしいと思います。それを考えないままに、一方的に「自分の特徴はこれです」とアピールする動画が多いですね。確かあのツイートをした前日にも選手から動画が送られてきました。8~9分の動画でしたが、ボールを失った後のゲーゲンプレス、相手ボールを奪いにいくプレスのシーンは皆無で、ドリブルばかり。スルーパスを通しました、ワンツーをダイレクトでやりました、そしてゴールを決めました。そういう動画ばかりです。これを欧州のクラブの人に見せたら私がただの素人に見えてしまう。攻撃、守備、2つのトランジション、それぞれの局面でのシーンが入っていれば良いのですが、攻撃の局面のみの映像、それもオン・ザ・ボールのみ。プロの選手であればスカウティングのサイトでいくらでも確認できますが、高卒や大卒の選手ではそれも難しい。たとえオーストリアの3~5部、ドイツの4~6部あたりであっても、必要とされているのはチームの戦力になるサッカー選手であり、ただ母国で上手いドリブラーではないということをもっと強く認識してほしいですね。

――ツイートでも「自らの特徴をアピールするだけではなく欧州の現場における真のニーズをもっと理解した方がベター」と書かれていました。国やリーグによって多少変わるとはいえ、今の欧州における現場のニーズとはどういうものでしょう?

私が携わっているのはドイツ、スイス、オーストリアといういわゆるドイツ語圏の国々になるので、そこでの経験と情報になりますが、間違いなくスカウティングの現場においてプロレベルになると「インテンシティーの高さ」が何度も出てきます。今から20年ほど前のドイツですと、単純に1対1の強さを求められることが多かったのですが、今はそもそもシンプルな1対1の状況がどこまであるのかという問題もありますし、プレスをかける際に本当の意味でボールに圧力をかけることができるのかというのが問われます。Jを見ていても、プレスをかける時に足だけで行って体を当てにいかないことがよくあります。少しレッドブル系のクラブにいたこともあるので、そこでの言葉を借りるとプレス時に「お手洗いスタイル」が多い。どういうことかというと、相手にプレスをかけに行くけれども、相手の1メートル程手前でストップをして構える。それがお手洗いしている姿と同じということでの「お手洗いスタイル」です。相手の手前でなぜ止まるのか? 相手のパスコースを限定する、相手のスピードを殺すようなプレスではなく、ボールを自ら奪い切る文化と意識、これは今大きなポイントになってきています。日本の選手が欧州でプレーしたい、ドイツ語圏でアピールしたいという時に、そこでのインテンシティーがないと間違いなく評価されません。もちろん、行ってかわされたらどうする? というのはあると思いますが、第1プレスでボールを奪いきれなかったとしても、そのインテンシティーによって相手のボールコントロールが乱れれば、第2、第3プレスで奪えます。私たちの言葉を使えば、「ゴールへの攻撃」「ボールを奪う攻撃」です。プレスも「攻撃」という認識なのです。ボールへのインテンシティーをもっと高めることが重要だと思います。

 

■南野拓実が示唆する欧州で求められるスタンダード

――モラスさんは日本での指導経験も長いですが、そうした欧州のスタンダード、ボールを奪う攻撃といった概念・アクションを伝えることはまだ難しいですか? それとも少しずつ変わってきていますか?

そういう認識を持つ選手、指導者は増えていると感じます。ただ、子どもの頃から染み付いている守備というのもありますし、いわゆる日本的な全員での組織的な守備の一環の中で、自分はパスコースを切りました、相手はこっちにしか出すことしかできません、だから君が奪ってね、というスタンスの守備はまだ多い。それが間違っているというわけではないですが、やはりストーミングやレッドブル系の指導者が欧州で活躍している中で、第1プレスの選手が相手の攻撃方向限定のタスクのみでは足りないよね、というのは共通認識になっています。第1プレスの選手から鋭いプレス、インテンシティーの高いプレスをかけ、かわされても構わないくらいの勢いで行く。そのインテンシティーが上がれば、相手のボールホルダーはプレッシャーを感じ、ボールロストしやすくなる。私が以前、オーストリアで率いていたチームでは、「守備」という言葉自体を使いませんでした。クラシカルな意味で言うと、守備時のチームへの貢献度をいかに自らのインテンシティーを上げることによって高めることができるか。選手のインタビューなどでも、一昔前のイメージかもしれませんが、ドイツでは1対1が重視されて、個人で守る。対して日本は組織的に守備をする、という話を聞きます。しかし、レッドブル系の思い切り前からプレスに行くチームでも、当然ながらしっかりと連動して組織的に動いています。やはり第1プレスのところでの強度の違いは大きいと思います。

――その文脈で今欧州にいる日本人選手を見た時、南野拓実がリヴァプールに移籍できた理由は間違いなくオーストリア、レッドブル・ザルツブルクでそういった守備を学んだからだと思います。2018年のロシアW杯後の日本代表では2列目の南野、中島翔哉、堂安律がもてはやされましたが、欧州でコンスタントに評価を受けているのは南野で、それは高いインテンシティーでプレーできるベースがあるからだと感じています。

おっしゃるとおりだと思います。私は、ザルツブルクに来た最初の試合から彼を見ています。やはり移籍直後は苦労が見えましたし、ボールを受けた時のターンの素早さ、技術の確かさは良かったのですが、相手ボールの時にいかに高いインテンシティーを持ってチームとしてのタスクをこなすことができるかというところでまだまだのところはありました。実際、彼はずっとザルツブルクでスタメンだったわけではありません。(リヴァプールに)移籍するラストシーズンはCLのような大切な試合でスタメンとして使われていましたが、それ以外のシーズンは途中出場も多かったのが事実です。ザルツブルクの主力選手ではあったものの、ザルツブルクに所属した5年間、必ずしも全ての試合でスタメンではありませんでした。ただ、彼はものすごく学習意欲の高い選手で、どんどん成長していきました。実は私の妻は当初、ザルツブルクで通訳、彼のドイツ語の先生を務めていました。移籍してきた時からドイツ語でなるべく話すようにしていましたし、最初の記者会見でもジャーナリストから「ザルツブルクで最初に覚えたドイツ語は?」と聞かれ、普通は「ありがとう」「こんにちは」のところ、彼はそこで「ゲーゲンプレス」と言って、監督やジャーナリストに好印象を与えていました。今は本当に流暢なドイツ語を話し、少し軽いオーストリア弁、方言まで話せるくらいです。もちろん、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督が以前からレッドブル・ザルツブルクのやり方を高く評価して、試合をよく見ているというところも大きいでしょうし、南野選手であればドイツ語で直接会話もできます。オーストリアでワンステップを踏む、欧州のサッカー、社会、考え方、いろんなことに適応して次のステップに行くという意味では大成功の事例だと思いますし、今後もこういう選手が増えてくればと願っています。

 


編集部からの「いま欧州クラブから良い日本人選手はいるかと聞かれたら誰を推薦するか?」という質問にモラス氏は悩みながら「いまパッと思い浮かんだのは、横浜FCの松尾佑介選手が好きですね。スピードもあるし、具体的には言えないですけど、オーストリアやスイスのようなステップアップリーグで求められる能力をいくつか持っている選手だと思う」。

 

■川崎フロンターレの三苫薫が欧州で評価されるために必要なこととは?

――欧州のクラブ、スカウトから見た今の日本人選手像についてお聞きします。個人的に、最近Jリーグからダイレクトでドイツのブンデスリーガに移籍する事例が減っているのと、移籍できたとしても室屋成(ハノーファー96)のように2部になっているので、見る目がかなり厳しくなっている印象を受けます。内田篤人、香川真司らが活躍していた頃の日本人バブルも落ち着きましたが、今ドイツのクラブは日本人選手をどう見ていますか?

 

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