大久保嘉人に見る、ベテランの味わい方(海江田哲朗)
『タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。
大久保嘉人の初ゴールをたくさんの人が待っている。
大久保嘉人に見る、ベテランの味わい方(海江田哲朗)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]四十三段目
■成長過程を見る楽しみ
スポーツメディアは若きアスリートの成長の物語、未知なる可能性が大好物である。才能を秘め、かつ蕾がほころび始めた段階であることに特別な価値を置く。
書き手である僕にとっても、将来性に富んだタレントは魅力的な題材だ。東京ヴェルディのように選手の育成に長け、次から次へと有望株な送り出すクラブに活動の軸足を置いているとなおさらそうなる。
日々、己の器を大きくしようと格闘し、できなかったことができるようになっていく変化を見られるのは楽しい。J2暮らしが長くなった東京Vの場合、年々、在籍するスパンが短くなっているのが泣きどころである。長くて3年、短ければ1年。上昇志向の強い選手ほど、タイミングを逃さず早い段階で巣立っていく。より強い相手、レベルの高いステージを求めるのは勝負の世界に生きる人の本能だ。
以前、敬重するノンフィクション作家から「トシを取っちゃうとね、若い選手に興味を持てなくなるんですよ。現場にいき、追いかけたいという気が起きなくなってくる」と聞かされ、恐怖心が湧いた。
やがて、ひとりのアスリートとして完成するときに、自分は立ち会えないという時間的な制限がそうさせるのか。僕も年齢的に少しわかるような気もするが、もしそうなったらいま取り組んでいる仕事は続けられない。さみしいなと思った。
■大久保嘉人から目が離せない
今季、東京Vに大久保嘉人がやってきた。補強の目玉であり、久しぶりのスター選手だ。川崎フロンターレで3年連続得点王となり、J1通算185ゴールは歴代最多得点記録。国際Aマッチ60試合6得点と日本代表でも長く活躍した。実績面は文句なし。まさに一時代を築いた名選手である。
その大久保が苦しんでいる。16試合に出場し、まだ一度もゴールネットを揺らしていない。
9月13日のJ2第19節、ザスパクサツ群馬戦(1‐3●)では、初ゴールに肉薄した。山本理仁が相手に倒されPKを獲得。キッカーを務めるのは大久保だ。ところが、真ん中を狙ったシュートは、清水慶記の右手に阻まれる。ここで、まさかのPK失敗とは。
地面に突っ伏して悔しがった大久保は、「PKを外すことはありますから。キーパーとの1対1でシュートを止められるほうが悔しい」と気丈に語った。
以降も大久保の奮闘は続く。だが、どうもチームとかみ合わない。周囲にボールを強く要求するも、肝心のタイミングがズレる。焦りからか、らしくないボールロストも目についた。得点どころかシュートを1本も打てず、ピッチを退くことさえあった。
今年で38歳。アテネ五輪世代、同期で現役を続けるのは田中達也(アルビレックス新潟)、今野泰幸(ジュビロ磐田)など数えるほどになった。
キャリアの晩年に差しかかりながら、まだ終わるものかと抗うストライカーの姿。あがけばあがくほど空回りして、結果がついてこない。趣味が悪いと思われるかもしれないが、これが格別の味わい、見応えがあるのだ。
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