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鉄人・石﨑信弘が語るJ3監督論。J1・J2・J3の“現場”で起きている地殻変動とは?

Jリーグで最多の指導キャリアを誇る石﨑信弘監督は現在、藤枝MYFCで指揮を執る。
J1、J2、J3、JFLと全カテゴリーで監督を務め、いまも第一線に立ち続ける監督はほかに見当たらない。現場にこだわり、現場で戦い続ける名将だからこそ見える、下部リーグの世界と指導者としての誇りがあるはずだ。9月中旬、こんがり日焼けした姿で登場した鉄人に話を聞いた。
(取材・文:海江田哲朗 写真提供:藤枝MYFC)

 

限られた資源のなかでJ2昇格を目指して奮闘する藤枝MYFC。写真は相手ゴール前に詰めるFWの大石治寿(9番)と森島康仁(20番)。

 

■うちには悪童がおるんでちゃんとコミュニケーションを取らないと

――2018年の途中から藤枝MYFCの監督に就任し、3年目のシーズン。新型コロナウイルスの影響で開幕が延期となり、難しい舵取りを迫られたと思います。
「チームの指導からトレーニングと練習試合を重ね、これから開幕だというときにコロナが襲ってきたからね。しばらく活動を休止しなければいけなくなり、積み上げてきたものが一旦リセットされてしまった。それで、いきなり開幕の日程が決まったじゃないですか。主力となるメンバーが次から次へと故障し、スタートに失敗。ただ、その分、若い選手たちが実戦経験を積んで成長し、チームの力になってくれています」

――過密日程で、必要十分なトレーニング量を確保するのは難しいのでは?
「調整、調整の連続になってしまいます。年配の選手が多い場合は、うまくローテーションさせながらやらないと」

――今季のJ3はブラウブリッツ秋田が開幕から首位を快走し、第15節が終了した現在、ロアッソ熊本が2位につけています。熊本の大木武監督は東農大の後輩ですね。
「武のところ、強いんですよ。J3のなかでは予算規模が大きいから大卒の能力の高い選手を獲得して、いいチームをつくっている」

――過去、何度も対戦して互いに手の内はわかっている。
「リーグが別ですれ違いが多いですけど、自分が柏の監督だったとき、武の甲府とやったね。あとはあいつが京都の監督で、わしが札幌だったときか。基本的に武は同じサッカーを徹底して追求していくタイプ」

――今季のJ2では昇格組のギラヴァンツ北九州が旋風を巻き起こしています。昨季、対戦したときの感触は?
「去年、北九州とは1勝1分け。もっとも、最終節で勝った試合、向こうは昇格と優勝が決まっていました。ディフェンスは(小林)伸二がつくるチームだけあって、かなり堅い。守備はJ2でも通用するかなと思いましたが、今年、攻撃力がずいぶんと高いとか。忙しくてJ2まで手が回らず、ほとんど観てないから細かいことはわからないですけど」

――堅固な守備組織の構築に定評のある小林監督が攻撃面で新境地を開いたように、ベテラン監督も進化に終わりはないのだと感銘を受けました。石﨑監督はご自身の変化をどう感じていますか?
「ディフェンスをベースにしたサッカーをやっていきたいという考えに変わりはありません。そのなかで、3バック、4バック、さまざまな形を試し、新しいことへのチャレンジを継続しています。昨年は得点が少なくて失点も少なかった。今年、点を取れるようになった一方、今度は失点も増えている。失点はそのままで得点を増やしていく目論見だったんですが、なかなか簡単ではないね」

――上位2チームに入るには得点力を上げなければ、という狙い。
「そう。ただ、失点するのはきらいなんです」

――相変わらず、守備のゆるみに対しては厳しい態度で。
「ディフェンスに関してはだいぶうるさく言っていて、映像を見ながらのミーティングは長くなりがち。練習だからこれぐらいでいいだろうと妥協するのがいやなんですね。それでは成長しないですから」

――谷澤達也選手とは、柏でお仕事をされていた頃からの長い付き合いですね。
「谷澤は隣町の焼津出身なんですよ。実家は練習場の近くらしい。途中から入れれば、必ず流れを変えてくれる選手。ビハインドの状況で入って、ひっくり返したゲームが何度もあります。リードしているときに使えば、相手をおちょくってくれて時間を稼げる。どんな状況でも効果的な仕事をしてくれるから、先発よりもサブに取っておきたい選手」

――かつて、石﨑監督は結婚式のスピーチをされたそうで。
「式の2、3日前、突然頼んできて。それで、あいつはすぐに千葉へ移籍。結婚式のときは知らなかったんですよ。代理人の人も同じテーブルにいたのに」

――十数年ぶりの再会で成長を感じるところも?
「谷澤も今年36で、子どもが4人もいる。一応大人になっているとはいえ、家庭を支える奥さんがよほどしっかりした人なんでしょう」

――石﨑監督は選手とのコミュニケーションを密に取るタイプの指導者ですね。
「人と話すのが苦ではなく、むしろ、好きなほう。サッカー以外もいろいろな話をしますし、いつもと少し様子が違ったら声をかけます。うちには森島(康仁)や秋本(倫孝)という悪童がおるんでね。ちゃんと話してコミュニケーションを取らないと」

 

■下部リーグで伸びる選手、伸びない選手

――まれに、藤本憲明選手(ヴィッセル神戸)のようにJFLやJ3からステップアップし、J1の舞台に立つプレーヤーがいます。彼らに共通して見られる要素とは?
「まずは向上心。うまくなりたい、強くなりたいという気持ちを持っているか。加えて、人の話を聞けること。聞いて理解しようと努める習慣を持っているかどうか。うまく伸びてこない選手は、人の話に耳を傾けない、聞いても吸収できないという傾向が見られます。J3でも先が楽しみな面白い選手はいますね」

――新しいポジションに挑戦して開眼するケースもありそうです。
「札幌のときの西大伍がそう。もともと中盤の選手だったんですが、サイドバックいなくて器用だからやれるだろうと使ってみたらその道で大成。同じく札幌の宮澤裕樹もセンターフォワードとしてはスピードがなく、センスを生かしてボランチで起用したらうまくはまった。いまはセンターバックをやっていますね。大分時代の(山根)巌も能力はあったけれど前線は競争が激しく、使いどころが難しかったんです。それではもったいないと中盤で使った結果、彼の努力の甲斐あってフィットしました」

 

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