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山本雄大主審、いいレフェリングでしたよ(海江田哲朗)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

左から一番目、JFAレフェリーカレッジに在籍時の山本雄大さん

 

山本雄大主審、いいレフェリングでしたよ(海江田哲朗)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]四十一段目

 

■レフェリーカレッジ時代に取材していた

9月2日のJ2第16節、アウェーのジュビロ磐田vs東京ヴェルディ戦。ヤマハスタジアムの新しい最寄り駅ができたと知り、そこから歩いて向かうことに決めた。東海道本線御厨駅。道に迷う可能性も考え、時間にたっぷり余裕をもってキックオフ2時間30分前には駅に到着した。

初めての土地はわくわくする。なんだったら付近を散策してもいいし、駅前でお茶、あるいは早めの晩メシを食べてもいい。そう思っていたら、駅周辺はきれいに何もなかった。

スタジアムに直行するほか選択肢がなく、歩き始めた。クラブのアクセスガイドによると徒歩20分の道のりだ。途中、巨大な工場の出口からライトブルーの作業着の人波。ちょうど終業時間か。ここはヤマハの企業城下町である。

キックオフは19時30分。なのに17時30分にはスタジアムに着いてしまった。報道受付の開始は1時間前と決まっている。どこかで時間を潰そうにも手立てがなく、とりあえずコンビニでアイスコーヒーを買ってひと休み。発表されたメンバー表に〈主審 山本雄大〉の名前を見つけ、おっと思った。

2019年5月17日のJ1第12節、埼玉スタジアムで行われた浦和レッズvs湘南ベルマーレでの一件をご記憶の読者は多いだろう。

湘南の杉岡大暉(現鹿島アントラーズ)のミドルシュートがポストを叩き、たしかに逆側のサイドネットを揺らした。シュートの回転、あるいはネットの張りが強すぎたせいか、ボールははね返ってゴールの外へ。ノーゴールのジャッジが下され、プレーは続行された。このゲームを裁いていたのが山本主審である。

誤審は珍しくないが、近年あったなかで衝撃度はピカイチ。Jリーグ史上、屈指の大誤審となった。SNS時代の袋叩きの激しさは以前の比ではない。すぐさま壮絶なバッシングが繰り広げられた。

いまから10年以上前のことだ。僕は『サッカー批評』(双葉社)の取材で、当時JFAレフェリーカレッジ(トップレフェリー候補生の養成機関。現在は発展的解消)に在籍する山本さんと会っている。

4期生の山本さんはまだ20代半ばの青年だった。元自衛官らしい姿勢のよさ、はきはきした口調、折り目正しさが印象に残っている。こういうちゃんとした人が審判員のトッププロを志すのだなと思い、つくづく自分のようないい加減な人間には到底務まらない仕事だと痛感した。一方で、四角四面の態度は、遊びのないハンドルを思わせるところもあった。
「カレッジに入る前、一度は審判員を辞めようと思ったんです。大学生の試合で退場者を3人も出して、試合を壊してしまった。一生懸命やることはやったが、自分には向いていないかもしれないと。あきらめかけた時、カレッジに推薦の話をいただいて、もう一度やってみようと決めました。いつか、ワールドカップの決勝で笛を吹きたいです」

そう語った山本さんは、順調にキャリアを重ね、2015年にはプロフェッショナルレフェリーの一員に名を連ねる。立派になられて、とひそかに応援していた。

 

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