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「残留請負人」前讃岐監督・北野誠が語るJ2監督論。魔境を生き抜く極意とは?

カマタマーレ讃岐を率いて9年、J2でも恵まれない戦力(本人曰く、問題児だらけ)のなかでしぶとく残留を果たしてきた仕事人・北野誠。
選手からの人望も厚く、退任が決定していた昨季ホーム最終節ではJ3降格が決定した試合直後にもかからず胴上げされるという前代未聞の出来事もあった。
現在はフリー(本人曰く、ニート)となり、愛車も手放した(理由は後述)という苦労人をライター・ひぐらしひなつが直撃。
激動の日々を振り返りながら、J2の監督論、戦術論、技術論から、指導した選手や対戦相手の傾向と対策まで、
まさにここだけの話全開のJ2トークをたっぷりお届けする。

 

 

▼10年前のJ2は「攻めたら負け」だった。最近は戦術家が増えてレベルも上がった

――御無沙汰してました。どう過ごされてますか。

いろいろお話はいただくんだけど、なかなかまとまらなくてね。まだニートですよ。いまこの業界は元日本代表とか大学の派閥とかの人脈で動いてるところがあるから、正直、俺みたいな叩き上げの人間にはいい話は回ってきづらいから。だから、いまは待ってる時間帯。

でね、この10年以上ずっと現場をやっていて、自分がすっごく小さい世界で生きてたってことがよく分かった。俺こんなの知らなかったよっていうことが、世の中にはいっぱいあって。

――それはサッカー的なことで。

サッカー的なこともそうだし、社会的なことも含めて。だから解任されて、逆にすごくよかった。いつ次の職が決まるか分からないけど、この何ヶ月かはとても有意義な時間を過ごしてる。目からウロコ。見る目が変わったね。ヒマだからいろんな試合を観るでしょ。面白い。

――いまどのへんにいちばん興味があるんですか。

J1。

――いやこれJ2を語っていただく企画なんですけど(笑)。

だってね、俺、J1なんてほとんど見たことなかったんだよ。分析のためのJ2しか見てないわけ。J2は何試合も見るけど。だから「J1すげー! これがサッカーだよ!」って思ったよ。J1とJ2では溜息の数が違うの。J2はやっぱり多いの。

10年前にロアッソ熊本でやってた頃は、「攻めたら負け」だったの。守ってたら勝つのがJ2だった。そういうチームがJ1に昇格しても勝てない。でも最近はJ2のレベルが上がってきて、俺が思うに、22チームのうち10チームが上を目指せるチーム。6チームは、まあ降格はしないチーム。残りの6チームは残留争いするしかない。昔は5チームくらいでJ1昇格争いしてたのに、いまは10チームくらいが昇格を目指してるでしょ。サッカー自体が昔みたいな「守って外国籍選手で得点」っていうのじゃなくなってるからね。

で、俺が下位6チームのうちのいちばん下のほうのチームを残留させるために何をやらなきゃいけなかったかというと、なんとか上位チームに引き分けて、中位のチームに勝つということ。もしくは、下位の6チームに負けないサッカー。下のほうには勝って、上位からは勝点1を拾う。そのことをずっと考えてやってた。

――戦術的な相性とかじゃなくて、順位なんですか。

あのねえ、監督に個性のある人がすっごく増えたでしょ。俺より若い監督がいっぱい出てきてるし、戦術家が増えて複雑になった。でも、その10チーム・6チーム・6チームの立ち位置はほとんど変わらない。やっぱり資金力なのかな。

J2を育成の場と見るのか戦いの場と見るのか。いまJ1に、以前はJ2で活躍していた選手がいっぱい出て、遜色なくプレーしてるでしょ。こないだも、ニートで引きこもってるんじゃないよって代理人から誘われてルヴァンカップのヴィッセル神戸対大分トリニータをユニバーに観に行ったんだけど、トリニータのメンバー表の前所属チームが、カマタマーレもあるしギラヴァンツもあるしで。ああ、すげえなと思った。

J2で活躍していた選手がJ1で普通に活躍してる。もしくは、前所属がJ2の選手だらけのトリニータがJ1に行って勝ってる。湘南ベルマーレにしてもそう。それはやっぱりJ2のレベルが上がってるんだろうなと。J1のレベルが上がり、J2のレベルはさらに上がって、でもまだJ3のレベルが上がりきれてないのかな。

――レベルが上がったのって、選手個々の能力ですか、戦術的な部分もですか。

両方がレベルアップできてると思う。止める・蹴るとか攻守の切り替えは、やっぱりJ1の選手のほうがクオリティーが高い。ただ、選手っていうのは、そこでやってたら絶対に慣れるわけですよ。

俺、23歳のときにブラジルのサンパウロにちょっと留学したんですよね。で、帰ってきて1ヶ月は無双ですよ。帰国してのプレーは全然違った。でも、徐々にまた日本のヌルさに慣れて、元に戻っちゃう。もちろんそれは俺のメンタルもダメだったんだけど、自然とそうなっちゃった。

だから、J2でやってる選手はJ1でも絶対戦えるし、それが慣れるまでどれくらいかかるか。松本山雅のヴィッセル神戸戦も観たんだけど、J2でも出たり出なかったりしてた永井龍が、あんなことが出来るでしょ。もともとクオリティーが高かったから、何かのきっかけでJ1で活躍する。トリニータの藤本も調子いいけど、そういう選手がJ2にすごく増えた。いままでは「まあちょっとJ1じゃ無理だな」っていう選手がみんなJ2にいたんだけど、最近はJ1でもプレーできそうな選手がJ2にいっぱいいる。そこにまた個性的な監督さんが増えて、面白かったよね。

 

▼エスナイデルに「俺もああいうサッカーやりたいよ」って言ったら……

――ジェフ千葉のエスナイデル前監督のサッカーはどう御覧になってたんですか。

俺たちがこんな仕事してなくて、ただ千葉に住んでたとして、フラットな状態で柏レイソル対ジェフユナイテッド千葉を観にいったら、どっちのサッカーを面白がるか。ネルシーニョの守備的なサッカーより、エスナイデルの攻撃的なジェフのほうが面白いって、ほとんどの人が言うと思う。俺は絶対にワクワクする。

そういう意味で、俺はエスナイデルのサッカーは好きだった。いちサッカーファンとしてね。ただ、サッカーの指導者として見たらどうなのかなと。あれだけ攻撃的にやったとしても、守備のことだって考えなきゃいけないでしょ。

――エンターテイナーではありましたけどね。

そう。彼はアルゼンチン人で、それが日本人との違いなのかなって。文化の差なんだと思う。以前、エスナイデルと話をしたときに「俺もああいうサッカーやりたいよ」って言ったら「なんでやらないの? やればいいじゃない」って言われたの。でも、俺がそれをやったら俺の生活はなくなるんだよな、俺の周りの選手の生活もなくなるんだよ、って思った。そのとき「ああ俺って日本人なんだな」と。

――エスナイデルはどれだけ負けていてもあのサッカーで勝てると信じてましたからね。

そしてみんな本当はエスナイデルみたいな攻撃的なサッカーをしたいわけよ。でも出来ないのはやっぱり日本人だからかなって。J2には降格があるからね。時間をかけてるうちに間に合わなくなる可能性もあるし、選手たちが自信をなくしちゃったら終わるから。

俺はずっと守備的にやってきたけど、あるとき攻撃的にやろうとしたときにすごく難しかったのが、あのチームの選手たちって守備的なサッカーで結果を出してきてるでしょ。キーパーのシミケン(清水健太)しかり、ディフェンスラインもそう、ボランチのヤツらもそう。それで急に「攻撃的にやろう」ってプレーしたときに、変な失点をしちゃうとみんな「やっぱり守ったほうがいい」ってふうになっちゃうの。俺たちは「下位の6」で、「上の6」には絶対に行けないの。

――2016年のカマタマーレは開幕好スタートだったんですけどね。

そこからじわじわと落ちてっちゃう。やっぱり地力の差なんだろうね。怪我人が絶対に出るから無理させられないっていうのもあったしね。2018年も強化の中島健太と話し合って補強の方向性を決めたんだけど、金額的な競合に負けてほとんど取れなかった。

 

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