西部謙司 フットボール・ラボ

「幸せか?」と札幌に問われた気がした聖地・厚別での激闘

サッカーはどうあるべきか。どうだったらハッピーになれるか。札幌はいつもそれを問いかけてくる稀有なチームですし、そういうチームがJリーグにあることは有難いような気持ちになります。(本文より抜粋)

サッカーの魅力満載だった札幌vs川崎 

ようやく秋らしく。気分よく散歩していたところ、小学生ぐらいのときに流行った歌が頭の中で回り始めました。なんでこの歌なの()? 自分でも驚くド演歌でした。しかも、好きだったわけでもない。それなのに歌詞を全部覚えていたので二度驚きました。

著作権の問題があるので歌詞は引用しませんが、まあよくある女の一途な気持ちを歌ったものです。ただ、よく考えてみるとけっこう凄い歌詞といいますか、今の若い人が聴いたら「病的」と思うでしょうね。私でも精神科に診てもらったほうがいいのではないかとすすめたくなりそうなレベルですから。

50年ぐらい経過すると、社会の価値観は変わるものだなと思いました。当時もね、特殊な部類ではあったと思うんですよ。けれども大ヒット曲だったわけですから共感する人はたくさんいたわけです。今、この歌詞だったらヒットもしないでしょうし、病気を疑われるかもしれない。それぐらい価値観というものは変わっているわけです。

スポーツは20世紀に大きく発展しました。科学が進歩して産業が興り、先進国の生活レベルが右肩上がりに良くなっていくのと並行してスポーツも繁栄してきました。プロはとくに勝負の世界ですから、弱肉強食の競争原理が基本です。勝つために懸命にやる、その結果として競争は激化し、より優れた者が残っていく。オール・オア・ノッシングですね。

しかし、21世紀も5分の1を過ぎた現在、価値観は変わりつつあります。我々が学生のころは、スポーツといえば根性論がまだ幅を利かせていましたし、今の基準でいえばパワハラなんか当たり前。イジメもけっこう酷いのがあったと思います。昔はそれが普通ですから、そのうえでの勝利はもちろん称えられていました。たぶん今は違うと思います。間違った過程のうえに築かれた栄光は間違いとされるでしょう。昔は些細な事とされてきたパワハラのほうが今では勝利より重大事です。

皆で競争して、勝者を目指して、一途につき進んでいった過去は、現在の目で見れば「病的」かもしれないわけで。そして、その競争の末に皆が幸せになれるわけではないこともわかってしまった。勝者でさえ幸せでないかもしれない。

前置きがずいぶん長くなりました。第31節の北海道コンサドーレ札幌4-3川崎フロンターレの感想でございます。この試合は札幌が年に何回かみせてくれるサッカーの魅力満載の内容でした。そして、こう問われているように感じたのです。「幸せなのか?」と。

札幌のような稀有なチームがJリーグにいることのありがたさ

札幌を率いるミハイロ・ペトロヴィッチ監督はご存知のとおりJリーグの名将です。同時にリーグ優勝したことがない無冠の帝王でもあります。

ミシャ監督が率いたサンフレッチェ広島や浦和レッズは優勝していてもおかしくないチームでした。ただ、優勝できなかった理由もだいたいわかっています。

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