サッカー番長 杉山茂樹が行く

ボールを“握りたい”森保J最大の問題は1トップ。代表を外れた神戸の大迫がいま眩しく見える理由

写真:Shigeki SUGIYAMA

 森保一監督が続投決定後、初めて臨んだ先のウルグアイ戦(1-1)、コロンビア戦(1-2)は、ベスト16入りしたカタールW杯の余勢を感じることができない、むしろ日本の危うい現状を垣間見る2試合となった。

 W杯本大会でこの2チームと同レベルにある国と、日本は同組で戦う可能性がある。次回2026年W杯はどのような方式で行われるか、まだ本大会のレギュレーションが決まっていないが、ベスト16がフロックではなかったと胸を張れるサッカーを、この2試合をホームで戦う日本は見せつけておきたかった。

 カタールW杯で不足していた要素がこの2試合を通じて露見したとは筆者の見立てだ。グループリーグ落ち必至と言われながらベスト16まで駒を進めた日本は、その反動で反省、検証を十分にすることができなかった。思いがけぬ好成績に浮かれたまま新たな船出を迎えることになった。その弊害を見る気がする。

 1番はセンターフォワード(CF)の問題だ。森保監督は仕切り直しとなった今回もなお、浅野拓磨、上田綺世、町野修斗、前田大然(故障のため出場はなし)を招集した。人材難なのか、アイディアに欠けるのか、その両方なのか、W杯本大会を戦ったCF候補4選手を、26人中10人以上が入れ代わる中、流用した。

 カタールW杯で出場時間が多かったのは、前田(183分)、浅野(162分)、上田(45分)、町野(0分)の順だった。森保監督はその中でスピード系の2人を重用した。そのことと、本番を従来とは異なる5バックになりやすい守備的なサッカーで戦ったことは密接な関係にある。

 スピード系のCFを1トップに据えたとき、相性がいいスタイルはボール支配率にこだわらないカウンター系のサッカーとなる。ゲームをコントロールしようとすれば、スピード系ではなくポストプレーを得意にするタイプのCFを1トップに起用するのが一般的だ。

 大迫勇也を最終メンバーから外した段で、本番でボールを支配したいサッカーに適した4-3-3や4-2-3-1ではなく、5バックになりやすい布陣にシフトしそうなことを予測しなければならなかった。

 一方、森保監督は続投決定会見、さらにはウルグアイ戦を前にした会見でも、以下のような言葉を吐いている。

「カタールW杯では、粘り強い守備からのカウンターで相手の嫌がる攻撃はできた。今後はボールを握りながら試合を進めるために必要なボールの動かし方を向上させていく必要がある」

 

 違和感を覚えずにはいられなかった。カウンターかボールを保持するサッカーかのカギを握っているのは選手ではなく監督だ。ボールを握るサッカーをするためには、監督がそれに相応しいCFを的確に選ぶ必要がある。カタールW杯に典型的なポスト系である大迫勇也を外し、1トップにスピード系のアタッカーである前田大然と浅野拓磨を据えて臨む決断をしたのは、他ならぬ森保監督だ。上田綺世、町野修斗はどちらかと言えば大迫系になるが、力不足は明白だった。

 握るサッカーを目指すなら ボールを収める力を持つCFを1トップに据えることがその大前提になる。1トップにボールが収まればパスコースは広がる。各選手がパスコースの代名詞である三角形を作る時間的な余裕が生まれる。カタールW杯より大迫が1トップを務めたロシアW杯の方が、そうした意味で優位的かつ魅力的なサッカーをしていた。結果は同じベスト16でもサッカーの内容は大きく違った。攻撃的なサッカーを好む筆者には、ロシア大会の方が後味はよかった。

 2期目を迎えた森保監督はボールを握るサッカーを目指すというが、だとすればその前に、なぜカタールW杯本番で突如、方向転換を図ったのかを説明する必要がある。

 作戦変更は選手の問題というより監督自身の問題だ。守備的なカウンターサッカーは、森保監督自身が選択したスタイルである。選手が勝手に決めた作戦ではないのだ。うっかりしていると誤魔化されそうになる話なので、気をつけるべきポイントだ。

 だが森保監督は今回、方向転換を図ろうとしているにもかかわらず同じ選手を選んだ。ボールを握るサッカーがしたいと言いながら、CF、1トップに拘りがあるようには見えない点にも突っ込みを入れたくなる。

 カタールW杯のメンバーに筆者は大迫を入れるべきだと主張した理由でもある。大迫の代役を果たせる選手が見当たらなかったからだが、選手交代5人制も輪をかけた。先に示した出場時間を見れば分かるとおり、最も出場した前田でさえ4試合で183分だ。とりわけアタッカーは出場時間をベンチの選手とシェアする時代になっている。先発投手が完投する例が減っているのと同じ理屈だ。

 大迫という唯一無二の替えが効かないタイプの選手を招集外にする理由が分からない。CFにボールがよく集まるサッカー。CFがチームの中心になっているサッカー。CFの間合いに周囲が合わせるサッカー。CFが中盤選手をはじめとする周囲の動きに合わせるサッカーでは、支配率を高めることはできにくい。中盤至上主義ではなく、CF中心主義で行かないと攻撃的なサッカーは貫けない。

 大迫を軸に戦った2018年ロシアW杯ではそれができた。2010年南アフリカW杯も同様だった。0トップに据えた本田圭佑が、その8年後の大迫役を果たしたことがベスト16入りしたひとつの大きな要因になる。

 ボールを収めることができる本田を0トップで使えとは、何を隠そう筆者が本大会の2、3ヶ月前に提言していたアイディアだ。南アフリカW杯初戦、対カメルーン戦の現場でその本田の0トップを目の当たりにしたとき、腰を抜かしそうになったものである。

 こう言っては何だが、本田は気質的に俺様系というか、オラオラ系というか、中心でいたいタイプの選手だ。技術的にはディフェンダーを背にすることを苦にしないポストプレーヤーとしての素地もあった。筆者が本田に0トップが適任だとイメージが湧いた理由だが、代表チームの監督はこうしたアイディアを練る必要がある。CFにとりわけ人材不足が目立つ日本の場合はなおさらだ。

 鹿島アントラーズの鈴木優磨は、そうした意味で面白い存在に見える。少なくとも試してみる価値を感じる。今季のJリーグで現在首位を行くヴィッセル神戸は、その好成績に大迫の存在感が深く関係している。国内リーグレベルではあるけれど、大迫はCFとして理想的な存在に見える。

 湘南ベルマーレの町野も先日、1試合で4ゴールを叩き出す離れ業を演じている。これは凄い記録だと話題を集めているが、振り返れば、その数日前に行われたコロンビア戦では、ゼロに近い存在感だったのだ。

 日本代表はその時、CF町野を中心にプレーが回っていなかった。町野の技術的な問題もさることながら、それ以上に遠慮がちにプレーする彼の気質的な問題が目に留まった。

 CFは失敗してもへこたれない、少々態度がデカい選手でないと務まらないポジションだ。何事も人目を気にしがちな日本人には気質的に務まりにくいポジションと言いたくなる。だが支配率の高いボールを握るサッカーは、CFが存在感を発揮しない限り、実現することは難しい。

 好調、神戸で元気に活躍する大迫が、ますます貴重な存在に見えてくる。森保監督はこのCF問題にどう対峙するか。成功不成功のカギを握る最大のポイントだと踏む。

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