南野vs.香川。かつての「1トップ下」本田を仲介して論点をあぶり出す
写真:岸本勉/PICSPORT
ボリビア戦。香川真司に代わって南野拓実がピッチに姿を現したのは後半23分で、その7分前にすでに途中出場していた中島翔哉、堂安律との連係で決勝ゴールがもたらされたのは、後半31分だった。
アジアカップ決勝でカタールにまさかの敗戦を喫し、前戦もコロンビアに実力通り完敗した。このボリビア戦にスタメンを総入れ替えして臨んだ森保ジャパン。即席チーム同然で、コンビネーション等に不安を抱える中での戦いだったが、ボロを出さずに済んだ格好だ。
中島、南野、堂安。森保ジャパン内で彼ら3人組の存在感が、また少し増した印象だ。今後について、楽観視する人は悲観視する人より多数を占めるだろう。
先発した3人(香川真司、宇佐美貴史、乾貴士)は引き立て役に回ることになった。中でも苦しい立場に追い込まれたように見えるのは香川と宇佐美だ。
香川の問題は前回のテキストでも触れたとおり、フォワード、アタッカーというより、中盤選手的なプレーに走る傾向が強いことだ。このボリビア戦でも、最終ライン付近まで下がってボールを受けるなど、4-2-3-1の1トップ下(3の真ん中)の平均的なポジションより低い位置でプレーした。
それは交代選手として、香川と同ポジションに入った南野との比較で鮮明になった。南野のポジションの方が全体的に高かった。4-2-3-1の1トップ下に相応しい位置取りと言えた。
ボリビア戦に1トップとして先発したのは鎌田大地。ボール操作術に優れたフォワードながら、ポストプレーが自慢の大迫勇也とは少々異なり、裏にスルっと抜けるプレーを得意にする。マイボールの時間を作る能力が高い大迫が1トップを務めるならば、1トップ下が下がるプレーはそう大きな問題にならない。両者間に距離が生まれても、時間的な余裕がそれを解決に導いてくれる。
しかし鎌田や、コロンビア戦に先発した鈴木武蔵が1トップを張るとそうはいかなくなる。1トップ下が彼らの近くにいてやらないと1トップは孤立する。バランスに乱れが生じる。
ロシアW杯では4-2-3-1にハマったプレーを見せた香川だが、その理由は1トップが大迫だったこと関係がある。ポストプレーヤーとはいえない岡崎慎司とのコンビでは、そうはいかなかったはずだ。岡崎と香川の2人が1トップと1トップ下の関係を築けば、高い位置にボールは収まらなくなる。
4-2-3-1の1トップ下は、その上で構える1トップのキャラ次第で、必要とされる要素が変わる。ゴールを奪うという目的から逆算すれば、1トップ下は1トップに合わせてプレーするべきなのだ。中盤至上主義的な気質を前面に押しだしてプレーすることは立場的に許されないのである。
岡崎、鎌田、鈴木が1トップなら、1トップ下にはポストプレーをこなすことができる選手が適任者になる。ゴールを背にしたプレーが得意な1トップ下。香川はそれに該当しない。身体が前を向いた状態でないと、よいプレーは期待できない。
南野はどうなのか。認識を新たにしたのは、森保ジャパンの第2戦対コスタリカ戦だった。遠藤航の縦パスを、ゴールを背にして受けながら反転して左足シュートを決めたシーンがあったが、これは香川との違いを見せた瞬間だった。南野の方が香川より対応の幅が広い。少なくとも、4-2-3-1という布陣には、香川より南野の方がマッチしていることがこのプレーで明らかになった。
もし布陣が4-3-3で、そのインサイドハーフとしてプレーするなら、定位置もそれに伴い4-2-3-1の1トップ下より下がる。ポストプレーが求められることはない。そこは中盤選手のためのポジションになる。実際、アギーレジャパン時代の香川は、インサイドハーフでプレーしたわけだが、その適役候補は多数存在する。いま、そこに香川がすんなり選ばれる保証はどこにもない。
問われるのは、技巧性、展開力、パスセンス等々、中盤選手らしい要素になる。ボリビア戦の前半23分、右サイドバックの西大伍が、左の乾に決定的なパスを送ったシーンがあったが、このような視野、洒脱なパスセンスを香川に期待することはできない。
4-2-3-1の1トップ下が高い位置を取れば、布陣は4-4-2的になる。2トップの一角と言うべき4-4-「1」-1の「1」。1トップ下ならぬ1トップ脇になる。4-3-3のインサイドハーフ、4-2-3-1の1トップ下より相手ゴールに近い場所でプレーするのでマークは当然、厳しくなる。速くて高度な技術を瞬間的に発揮する力が求められる。
これが近代的な10番像だ。すでに引退した選手で言えば、デニス・ベルカンプ、ラウール・ゴンサレス、アレッサンドロ・デルピエーロが3巨頭になる。ベルカンプで言えば、秀逸だったのは、アーセナルでコンビを組んだ1トップ、ティエリ・アンリとの関係だ。スピード感溢れるアンリと、ボールを収める能力が高いベルカンプと。そのアクションのコントラストが、相手を混乱に陥れていた。
日本で高い位置で構えた1トップ下と言えば本田圭佑になる。2011年アジアカップ、0トップとして活躍した2010年南アW杯がその最盛期だった。その本田にあって香川にないものがポストプレーで、さらに、本田は岡崎ともよい関係を築くことができていた。
そんな本田を押しのけて香川が日本代表で10番を付けることになった理由は定かではないが、これを示されると思わず納得せざるを得ないというデータがCLの出場試合数になる。
選手としてのステイタスを示す物差しと言えば、代表キャップ数がまず頭を過ぎるが、世界的な価値基準はCL試合出場数だ。
これに香川は支えられてきた。その数33は日本人トップ。本田(11試合)の3倍に当たる数字だ。
香川は日本代表監督にとって外すわけにいかない選手だったのだ。しかし今季のCL出場は、ドルトムントで途中交代したグループリーグ初戦対クラブ・ブルージュ戦のみ。監督に遠慮は要らなくなっている。その伝でいけば、今季のCLに5試合(通算15試合)出場した長友佑都は、相変わらず外せない選手となるが、それはともかく、もし香川が、たとえば来季、ベシクタシュの一員としてCL出場を果たせば、話は違ってくる可能性がある。
一方、南野には、所属のザルツブルグで、ヨーロッパリーグの出場経験はあってもCL出場の経験は1試合たりともない。近い将来、CL級のクラブから声が掛かり、その出場回数を伸ばす選手になれるだろうか。難しいと言わざるを得ない。日本代表の1トップ下争いでは、香川に対して優位に立つものの、選手としてのステイタスではいまのところ香川の足元にも及ばない。
日本代表で香川との争いにリードしている現状は、流れに上手く乗っているに過ぎない。今後の評価はポストプレーを含む高い位置で、どれほど効果的なプレーに絡めるかが物差しになる。
一方、中島、堂安に決定的に不足している要素もチャンピオンズリーガーの看板だ。繰り返すが、この出場試合数を積み重ねれば選手のステイタスは上昇する。それが代表選手としての格の上昇にも繋がる。多少調子が悪くても、席を空けて待っていると監督が言わざるを得ない特別な存在になることができる。
中島、堂安、南野の3人の中でCL出場を果たすのは誰か。出場回数を積み上げるのは誰か。
ちなみに、日本人の歴代チャンピオンズリーガーの出場試合数ランキングは以下の通り。
香川(33試合ドルト、ムント・マンチェスター・ユナイテッド)、内田篤人(29試合、シャルケ)、中村俊輔(17試合、セルティック)、長友佑都(15試合、インテル・ガラタサライ)、本田圭佑(11試合、CSKA)、小野伸二(9試合、フェイエノールト)、岡崎慎司(7試合、レスター)、稲本潤一(7試合、アーセナル、ガラタサライ)、長谷部誠(6試合・ヴォルフスブルク)、鈴木隆行(4試合・ヘンク)など。
チャンピオンズカップ時代の奥寺康彦氏(2試合・ケルン)を含めても、その数わずか16人だ。絶対数に欠ける。伸び悩んでしまっている。
それは国力を示すバロメーターでもある。日本代表の強化はチャンピオンズリーガーを増やすこととほぼ同義語。3人組を必要以上に讃える姿は、井の中の蛙そのもの。
チャンピオンズリーガーは何人いるか? 忘れてはならない視点は、キリンチャレンジカップの結果よりこちらなのである。